SiC MOSFETの信頼性を向上させるデバイス構造を開発

2020年7月30日

東芝デバイス&ストレージ株式会社

当社は、SiC MOSFET注1の信頼性を向上させるデバイス構造を開発しました。本技術は、MOSFETの内部にショットキーバリアダイオード注2(SBD)を搭載した構造を特徴としており、オン抵抗の上昇を抑えながら、当社従来技術に比較してMOSFETの信頼性を10倍以上向上させることが可能です注3

パワーデバイスは、自動車や産業機器などあらゆる電気機器の省エネルギー化に不可欠な半導体であり、シリコンカーバイド(SiC)は、従来のシリコン(Si)よりも高耐圧、低損失化が可能な次世代のパワーデバイス材料として注目されています。現状では、鉄道向けインバーターなど高耐圧品を中心にSiCが活用されていますが、今後、太陽光発電や電源制御など、より幅広い耐圧での活用が期待されています。

一方、SiCのさらなる普及に向けては、信頼性の向上が課題となっています。そのうちの一つに、SiC MOSFETのドレイン・ソース間に存在するPNダイオード注4に通電すると、PNダイオードの動作によってSiC結晶中の欠陥が拡張するという問題がありました。結晶欠陥の拡張はMOSFETのオン抵抗を変動させ、製品の不具合にも繋がります。

当社は、SiC MOSFETの内部に、PNダイオードと並列にショットキーバリアダイオード(SBD)を配置する構造を採用することで、この問題を解決しました。結晶欠陥の拡張は、PNダイオードへの通電により発生するため、PNダイオードよりもオン電圧の低いSBDを配置することで、SBD側に電流が流れ、PNダイオードへの通電を抑止します。これにより、結晶欠陥の拡張を防止し、オン抵抗の変動を抑えることができます。

また、SiC MOSFETにSBDを搭載したデバイスは、これまでにも実用化されていたものの、オン抵抗が大きくなるため、それを許容できる3.3kVなど高耐圧な製品にしか適用できませんでした。当社が今回開発したデバイス構造は、MOSFETの中にあるMOSFETエリアとSBDエリアの比率を最適化したため、オン抵抗を従来技術によりも抑制することに成功しました。

その結果、SBDを搭載し、信頼性の高い耐圧1200VのSiC MOSFETを実現しています。

当社は、今回の技術の詳細を、7月上旬にオンラインで開催されたパワー半導体の国際学会PCIM Europeで発表しました。本技術を採用した製品を、2020年8月下旬から量産する予定です。

注1 MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor):金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ。トランジスタの構造の一種。
注2 ショットキーバリアダイオード:金属とn型半導体が一つの結晶内でつながったダイオード。
注3 ソースからドレインへ電流密度250A/cm2で1000時間の通電を実施。当社の従来構造のMOSFETは1000時間の通電後に最大で42%オン抵抗が変動する素子があったが、SBDを混載したMOSFETは、最大でも3%の変動に抑えることができた。
注4 PNダイオード:p型半導体とn型半導体が一つの結晶内でつながったダイオード。

SBDを搭載したMOSFETの断面構造

SBDを搭載したMOSFETの断面構造

従来のMOSFETと今回開発したMOSFETにおけるオン抵抗の変動比較

従来のMOSFETと今回開発したMOSFETにおけるオン抵抗の変動比較

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