高温環境下でも高い信頼性を保持するLDMOS搭載の車載用アナログパワーIC向けプロセス技術を開発

2019年 5月 23日

東芝デバイス&ストレージ株式会社

株式会社ジャパンセミコンダクター

東芝デバイス&ストレージ株式会社(以下、東芝デバイス&ストレージ)と株式会社ジャパンセミコンダクター(以下、ジャパンセミコンダクター)は、高温環境下でも高い信頼性を実現する低耐圧NチャネルLDMOS注1を搭載した0.13μm世代の車載用アナログパワーIC向けプロセス技術を開発しました。本技術により、LDMOSの製造プロセスにおいて結晶欠陥が原因で発生するリーク電流の増加を抑制し、150℃以上の高温下における寿命注2を当社従来技術に比較して10倍以上注3に改善しました。本技術の詳細を、中国・上海で開催されたパワー半導体国際学会「ISPSD2019」にて、5月22日(現地時間)に発表しました。

 

自動車の電動化や電子化を背景に、車載半導体はさらなる市場の伸長が見込まれています。車載半導体は高温状態で長期間使用されるため、そのような厳しい条件下でも、信頼性を保持することが求められます。NチャネルLDMOSは、産業機器や民生機器のモーター制御ICなどに使用されており、近年、車載分野における需要拡大も期待されています。

 

LDMOSの製造プロセスでは、Siに拡散層を作るために不純物を打ち込む際、Siの結晶性が乱れます。不純物濃度が高いほど結晶欠陥が発生しやすくなり、初期リーク電流注4の増加など、製品の特性に悪影響を及ぼします。従来のLDMOSには、大面積化すると初期リーク電流が増加して歩留まりが低下するという問題と、車載用途を想定した厳しい温度や時間で信頼性試験(HTRB注4)を実施した場合、使用時間が長くなるにつれてリーク電流が増加するという問題(HTRB変動)がありました。

 

そこで、東芝デバイス&ストレージが培ってきたシミュレーション技術、デバイス設計技術と、ジャパンセミコンダクターが持つ半導体プロセス技術を活用することで、信頼性を向上させたプロセス技術を開発し、これらの問題を解決しました。

 

まず、製造プロセスにおける結晶欠陥に起因する初期リーク電流の増加には、LDMOSの製法変更で対応しました。従来技術では、LDMOS末端部のSTI注5を埋め込む際、HDP-CVD注6という製法を用いていましたが、今回開発した技術では、SA-CVD注7を採用しました。後者は前者よりもSiに対するSTIからの応力注8が小さく、不純物濃度が高くても結晶性が乱れにくいため、初期リーク電流の増加を抑制できます。

 

また、HTRB変動のメカニズムを解析した結果、LDMOSの末端部の構造に原因があることを発見しました。HTRB変動は、イオン注入でSTI領域とSi領域の境界に発生した欠陥が、その後の熱工程で欠陥に水素イオンが結合することで見えなくなるものの、高温状態で長時間が経過すると水素イオンが欠陥から外れてしまうことで発生します。そのため、今回の技術で用いるLDMOSでは、ゲートポリでSi領域とSTI領域の境界面を覆うことで、STIからの最も大きな応力を受けるSi領域とイオン注入の過程でダメージを受ける領域を遠ざけて結晶欠陥の発生を抑制し、HTRB変動の特性を改善しました。

 

両社は、今回開発したプロセス技術を採用した車載向け製品を2019年7月から量産する予定です。

 

なお、東芝デバイス&ストレージでは、今回のLDMOSに加えて、耐圧や用途に応じて多様なLDMOSをラインアップしており、現在は、既存のLDMOSよりもオン抵抗を半減した第四世代LDMOS開発にも注力しています。両社は今後も、低オン抵抗なLDMOSをはじめとした素子の開発を促進し、機器の低消費電力化や小型化に貢献していきます。

注1 LDMOS:Lateral Double Diffused MOSの略。横方向拡散MOSのこと。

注2 信頼性評価試験においてリーク電流が上限スペックを超えるまでに要する時間を寿命と定義。

注3 当社従来技術(大面積化が不要で、非車載用途の製品)と比較して、2019年5月時点、当社調べ。

注4 HTRB:High Temperature Reverse Biasの略。高温、逆バイアスストレス条件下でのデバイスのリーク電流挙動を評価する試験。同試験において、時間につれてリーク電流が増加する現象のことをHTRB変動と呼ぶ。

注5 STI:Shallow Trench Isolationの略。浅い溝に絶縁膜を埋め込み、素子間・電極間を分離する領域のこと。

注6 HDP-CVD:High Density Plasma assisted Chemical Vapor Depositionの略。化学気相反応の原料ガスを高密度なプラズマ状態にして成膜する技術のこと。

注7 SA-CVD:Sub-atmospheric Pressure Chemical Vapor Depositionの略。亜大気圧下で原料ガスを熱分解反応させて成膜する技術のこと。

注8 応力:SiとSTIを埋め込む酸化膜は熱膨張係数が異なるためSTIからSiへ向け圧縮または引張応力が働く。

 

今回開発した技術による初期欠陥の抑止

今回開発した技術による初期欠陥の抑止

従来技術と今回開発した技術の比較

従来技術と今回開発した技術の比較

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