2020年9月25日
東芝デバイス&ストレージ株式会社
当社は、ダイレクト駆動方式によりシステム設計の簡易化と安定動作を実現するカスコードタイプのディスクリート窒化ガリウム(GaN)パワーデバイスを開発しました。本デバイスは、ドレイン電圧の変動に対して誤ってオン動作をするリスクを大幅に低減でき、システム設計において重要なパラメーターであるスイッチングスピードをシリコンパワーデバイスと同様に調整することが可能です。
GaNパワーデバイスは、従来のシリコンよりも高周波のスイッチングが可能な点を特長としており、搭載された機器を大幅に小型化することができます。現在、スマートフォンやパソコンなどの急速充電器などで採用され始めているほか、今後、産業機器やサーバーの電源用途など、さらなる普及が期待されています。
一般にパワーデバイスでは、ゲートに入力信号がない場合にオフの状態(ノーマリーオフ)であることが求められますが、GaN HEMT注1は構造上、ゲートに入力信号がない場合にオンの状態(ノーマリーオン)であるという特性があります。そのため、現在のGaNパワーデバイスでは、GaN HEMTとノーマリーオフの低耐圧シリコンMOSFETをパッケージ内で組み合わせた「カスコードタイプ」と、ゲートにP型GaNを形成することでGaN HEMTをノーマリーオフにした「P-GaNゲートタイプ」の2種類が主に採用されています。
当社は、ゲートの閾値注2電圧が高く、特殊なゲートドライバーICを必要としないカスコードタイプを念頭に開発を進めています。一方、カスコードタイプは、シリコンMOSFETを介してGaN HEMTを駆動しているため、スイッチングスピードを外部のゲート抵抗で調整することが難しいという課題がありました。
今回当社が採用したダイレクト駆動方式は、GaN HEMTをドライバーICで直接駆動する方式のため、通常のシリコンパワーデバイスと同様にスイッチングスピードを調整することが可能であり、GaNパワーデバイスを採用したシステム設計を容易にします。
また、同方式は、シリコンMOSFETを介さない駆動のため、外部電圧の急激な変動がもたらすシリコンMOSFETの電圧変動によってGaN HEMTが誤ってオン動作をするリスクを大幅に低減でき、機器の安定動作に貢献します。
デバイスの信頼性についても、今回開発したGaN HEMTは、電源用途で使用する電圧および温度で十分な寿命があることを確認できました。注3
なお、今回当社が開発したディスクリートタイプのGaNパワーデバイスは、ドライバー回路とは一体化されていないため、用途に応じて自由にゲートドライバーICを選択できます。
当社は本技術の詳細を、9月13日から18日までオンラインで開催された半導体国際学会「IEEE International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD) 2020」において発表しました。今後も、GaNをはじめとした次世代パワーデバイスの開発を加速していきます。
注1 GaN HEMT:窒化ガリウム高電子移動度トランジスタのこと。現在GaNパワーデバイスとして実用化されているデバイス構造。
注2 閾値:トランジスタをオンさせるゲート・ソース間電圧のこと。閾値電圧が高い場合、ゲート電圧の変動に対してもGaN HEMTが誤ってオン動作するリスクが減る。
注3 高温・高電圧加速試験を行い、通常電源用途等で使用される500Vのバイアス状態で1000年以上の予測寿命がある結果を確認した。
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