2021年6月23日
東芝デバイス&ストレージ株式会社
当社は、シリコンカーバイド(SiC)MOSFET注1の高温環境下における信頼性向上と電力損失低減を実現するデバイス構造を開発しました。今回開発したデバイス構造を採用した耐圧3.3kVの素子は、175℃の高温環境下において、信頼性低下のない状態で導通可能な電流量が当社従来構造に比較して2倍以上に増加しています注2。また、室温における単位面積あたりのオン抵抗は、当社従来構造に比較して、耐圧3.3kVの素子で約2割、耐圧1.2kVの素子では約4割、それぞれ低減しました注3。
SiCは、従来のシリコンよりも高耐圧、低損失化が可能な次世代のパワー半導体材料です。現在採用が進んでいる鉄道向けインバーターのみならず、太陽光発電や電源制御など、より幅広い用途での活用が期待されていますが、SiCのさらなる普及に向けては、信頼性の向上が課題となっています。そのうちの一つに、ソース・ドレイン間のPNダイオード注4に通電すると、素子内に存在する結晶欠陥が拡張するという問題がありました。結晶欠陥の拡張はMOSFETのオン抵抗を変動させ、製品の不具合にも繋がります。
当社は、同問題の解決に貢献するデバイス構造を開発し、2020年7月に半導体国際会議PCIM Europe 2020にて発表しました注5。同デバイス構造は、耐圧1.2kVのSiC MOSFETの内部に、PNダイオードと並列にショットキーバリアダイオード(SBD)注6を配置する構造が特徴です。PNダイオードよりもオン電圧の低いSBDを配置することでSBD側に電流が流れ、PNダイオードへの通電を抑止し、結晶欠陥の拡張を防ぎます。一方、同デバイス構造は、より高耐圧なデバイスへ適用した場合、175℃以上の高温環境下において導通できる電流量に制限がありました。SiCのさらなる多用途への活用には、高耐圧デバイスに対しても、高温環境下で高い信頼性を保つことが求められます。
そこで当社は今回、昨年開発したデバイス構造を基に、同構造比で約25%素子を微細化し、SBDによるPNダイオードへの通電抑制能力を強化することなどの構造最適化を行いました。これらにより、175℃の高温環境下の耐圧3.3kVの素子においても、信頼性を低下させずに導通可能な電流量が当社従来構造に比較して2倍以上になりました注2。また、信頼性を維持しながら電力損失を低減することにも成功し、単位面積当たりのオン抵抗を3.3kVの素子で約2割、1.2kVの素子で約4割低減することを確認しています注3。
当社は、今回の技術の詳細を、5月3日からオンラインで開催されたパワーデバイスの国際学会「PCIM 2021」と, 5月30日からオンラインで開催された半導体の国際学会「IEEE International Symposium on Power Semiconductor Devices and ICs (ISPSD) 2021」において発表しました。今回開発したデバイス構造を採用した耐圧3.3kVの製品は、2021年5月からサンプル出荷しています。
注1 MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor):金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ。トランジスタの構造の一種。
注2 175℃のソース・ドレイン電流測定において, 当社従来型SBD内蔵MOSFETでは110A/cm2付近でPNダイオードが動作するのに対し, 今回開発した構造では250A/cm2までPNダイオードが動作しない。
注3 室温における単位面積あたりの特性オン抵抗を当社従来型SBD内蔵MOSFETと比較。耐圧3.3kV素子では20%、耐圧1.2kV素子では39%低減することを確認した。当社調べ。
注4 PNダイオード:p型半導体とn型半導体が一つの結晶内でつながったダイオードのこと。
注5 当該技術の詳細は、2020年7月の当社ニュースリリース「SiC MOSFETの信頼性を向上させるデバイス構造を開発」を参照。
注6 ショットキーバリアダイオード:金属とn型半導体が一つの結晶内でつながったダイオード。
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