車載トラクションインバーター向け、低オン抵抗と高信頼性を実現した1200V耐圧SiC MOSFETのベアダイのテストサンプル出荷について

2024年11月12日

東芝デバイス&ストレージ株式会社

これは、車載トラクションインバーター向け、低オン抵抗と高信頼性を実現した1200V耐圧SiC MOSFETのベアダイのテストサンプル出荷についての画像です。

当社は、車載トラクションインバーター[注1]向けに、新構造で低オン抵抗と高信頼性を両立した1200V耐圧シリコンカーバイド (SiC) MOSFETのベアダイ[注2]製品「X5M007E120」を開発し、テストサンプル出荷を開始しました。

一般的なSiC MOSFETは、逆導通動作[注3]時にボディーダイオードがバイポーラー通電するとオン抵抗が増大していく信頼性の課題がありました。当社のSiC MOSFETは、MOSFETチップにショットキーバリアダイオード (SBD) を内蔵することで、ボディーダイオードが動作しないように対策したデバイス構造を採用しています。しかしながら、内蔵SBDがチップ面積の一部を占有することは、MOSFETのオン動作の抵抗を決めるチャネル領域の面積を減少させ、チップのオン抵抗の上昇に直結します。

X5M007E120は、内蔵SBDの配置を従来のストライプ配置から市松模様に変更することで、ボディーダイオードのバイポーラー通電[注4]を効果的に抑制し、同じSBD搭載面積でも約2倍の電流範囲までユニポーラー動作の上限が向上しました[注5]。また、チャネル密度が向上し、単位面積当たりのオン抵抗が、ストライプ配置の従来プロセスと比較して20%~30%程度低減しました[注5]。これにより、逆導通動作時の信頼性を保ちながら、オン抵抗の低減を実現し、車載トラクションインバーターなど、モーター制御用インバーターの用途で省エネルギー化に貢献します。

SiC MOSFETのオン抵抗を低減すると、短絡動作[注6]時にMOSFET部に過剰に流れる電流が増加するため、短絡動作の耐久性が低下します。また、逆導通動作の信頼性向上のために内蔵SBDを動作しやすくすると、短絡動作時にSBD部の漏れ電流が増加し、短絡動作の耐久性の低下につながります。開発製品は、深いバリア構造[注7]を採用することで、短絡動作中のMOSFET部の過剰な電流とSBD部の漏れ電流を抑制します。これにより、逆導通動作に対する優れた信頼性を保ちながら、短絡動作時の耐久性を向上することが可能です。

また、ベアダイを採用することで、ユーザーのニーズに応じたカスタマイズが可能となり、用途に合わせたソリューションを提供できます。

当社は、X5M007E120のエンジニアリングサンプルの出荷を2025年に、量産出荷を2026年に予定しており、さらなる特性改善に向けた検討を進めていきます。モーター制御用インバーターや電動車両の電力制御システムなど、エネルギー効率が求められる分野での活用に向け、より使いやすく、高性能なパワー半導体をユーザーに提供することで、脱炭素社会の実現に貢献します。

[注1] 電気自動車 (EV) やハイブリッド車 (HEV) で、バッテリーから供給される直流電力を交流電力に変換し、モーターを制御する装置。
[注2] パッケージ化されていないチップ状態の製品。
[注3] 回路中の電流の還流によってMOSFETのソースからドレイン方向に電流が流れる動作。
[注4] ドレインとソースの間に存在するpnダイオードに順方向電圧が印加されてバイポーラー動作が起こること。
[注5] 当社従来ストライプ配置製品との比較。
[注6] 正常スイッチング動作時の短時間の導通に対して、制御回路の故障などの異常時に長時間の導通が起こる現象。一定時間の短絡動作で故障しない耐久性が求められます。
[注7] 高電圧による高電界をコントロールするために設けられる、デバイス構造の要素。素子の性能に大きく影響します。

これは、図1 外観 (トップビュー) と内部回路構成図の画像です。
図1 外観 (トップビュー) と内部回路構成図
これは、図2 従来のストライプ配置型SBD内蔵MOSFETと市松模様SBD配置型SBD内蔵MOSFETとの模式図の画像です。
図2 従来のストライプ配置型SBD内蔵MOSFETと市松模様SBD配置型SBD内蔵MOSFETとの模式図
これは、図3 従来のストライプ配置型SBD内蔵MOSFETと市松模様SBD配置型SBD内蔵MOSFETの最大ユニポーラー伝導電流密度とオン抵抗の実測値 (当社調べ) の画像です。
図3 従来のストライプ配置型SBD内蔵MOSFETと市松模様SBD配置型SBD内蔵MOSFETの最大ユニポーラー伝導電流密度とオン抵抗の実測値 (当社調べ)
これは、図4 一般的なSiC MOSFETと東芝のSiC MOSFET (MOSFETチップにSBDを内蔵したMOSFET) の比較の画像です。
図4 一般的なSiC MOSFETと東芝のSiC MOSFET (MOSFETチップにSBDを内蔵したMOSFET) の比較
これは、図5 従来の市松模様SBD配置型SBD内蔵MOSFETと深いバリア構造MOSFETの模式図の画像です。
図5 従来の市松模様SBD配置型SBD内蔵MOSFETと深いバリア構造MOSFETの模式図
これは、図6 従来のストライプ配置型SBD内蔵MOSFETと深いバリア構造MOSFETの短絡耐量とオン抵抗の実測値 (当社調べ) の画像です。
図6 従来のストライプ配置型SBD内蔵MOSFETと深いバリア構造MOSFETの短絡耐量とオン抵抗の実測値 (当社調べ)

応用機器

  • 車載トラクションインバーター

開発製品の主な特長

  • 低オン抵抗と高信頼性を同時に実現
  • 車載向けベアダイ
  • AEC-Q101適合
  • ドレイン・ソース間電圧定格: VDSS=1200V
  • ドレイン電流 (DC) 定格: ID=(229)A[注8]
  • オン抵抗が低い:
    RDS(ON)=7.2mΩ (typ.) (VGS=+18V、Ta=25°C)
    RDS(ON)=12.1mΩ (typ.) (VGS=+18V、Ta=175°C)

[注8] 暫定値

開発製品の主な仕様

(特に指定のない限り、Ta=25°C)

品番 X5M007E120
パッケージ 東芝パッケージ名称 2-7Q1A
サイズ  (mm) Typ. 6.0×7.0
絶対最大定格 ドレイン・ソース間電圧 VDSS  (V) 1200
ゲート・ソース間電圧 VGSS  (V) +25/-10
ドレイン電流 (DC) ID  (A) (229)[注8]
ドレイン電流 (パルス) ID Pulse  (A) (458)[注8]
チャネル温度 Tch  (°C) 175
電気的特性 ゲートしきい値電圧
Vth  (V) 
VDS=10V、
ID=16.8mA
Typ. 4.0
ドレイン・ソース間
オン抵抗
RDS(on)  (mΩ)
ID=50A、
VGS=+18V
Typ. 7.2
ID=50A、
VGS=+18V、
Ta=175°C
Typ. 12.1
ソース・ドレイン間
オフ電圧
VSD  (V)
ISD=50A、
VGS=-5V
Typ. -1.21
ソース・ドレイン間
オフ電圧
VSD  (V)
ISD=50A、
VGS=-5V、
Ta=175°C
Typ. -1.40
内部ゲート抵抗
rg  (Ω)
Open drain、
f=1MHz
Typ. 3.0

当社のSiCパワーデバイスの詳細については下記ページをご覧ください。
SiCパワーデバイス

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