汎用性を重視し、車載用途として必要最低限の機能を有したゲートドライバーIC。
3相ブラシレスモーターを使用するボディー系全般、ポンプ、モータージェネレーター向け
車載機器内で使用されるモーターは増加の一途を辿っており、寿命の長さ、静粛性の高さで比較的優位な3相ブラシレスモーターの伸びが顕著です。当社はこの需要に対応するために製品ラインアップの強化に取り組んでおり、ここでご紹介する「TB9084FTG」はその強化の一環です(表1)。
表1 当社の車載3相ブラシレスモーター向けゲートドライバーICのラインアップ状況
品番 | ステータス | パッケージ | ゲート ドライバー |
チャージ ポンプ |
電流検出 AMP |
リレー ゲート ドライバー |
SPI | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
TB9081FG | 量産中 | LQFP64 | ○ (3相) |
○ (3倍昇圧) |
○ (3ch) |
○ (5ch) |
○ |
EPS向けとしてフル機能版、ASIL-D相当 |
TB9083FTG | 量産中 | QFN48 | ○ (3相) |
○ (3倍昇圧) |
○ (3ch) |
○ (3ch) |
○ |
TB9081に対して、リレーDr.や基準AMPなどを削減、ASIL-D相当 |
TB9084FTG | 開発中 | QFN36 | ○ (3相) |
○ (3倍昇圧) |
○ (1ch) |
○ (1ch) |
○ |
多岐にわたるアプリをターゲットとしたTB9083のIPで構成するカットダウン版(ゲートドライバー電流能力削減、セーフティーリレー用ゲートドライバー等を削除)。 |
TPD7212F | 量産中 | QFN32 | ○ (3相) |
○ (3倍昇圧) |
- | - | - | 必要最低限の機能で汎用性の高い製品 |
以前は「TPD7212F」(必要最低限の機能)と「TB9083FTG」(ASIL-D[注2]に対応した機能)の間において搭載機能の点で大きなギャップがありましたが、TB9084FTGがそこを解消し多種多様なお客様のニーズに応えます。
TB9084FTGは3相ブラシレスモーターを駆動する外付けのNch-MOSFETを駆動します。このゲートに電圧を出力するためゲートドライバーICと呼んでいます。また更にもう一つ、外付けNch-MOSFETを制御する出力端子を1チャンネル有します。バッテリー逆接時の保護用、電源遮断リレーなどに使用できます。SPI通信には異常検出フラグを読み出す機能の他に、正常状態と異常状態のしきい値を設定する機能、また異常状態を検出した後のリアクション動作などを設定する機能があり様々なユースケースに対応できます。更にモーターに流れた電流をモニターするためのオペアンプを1チャンネル有します。このオペアンプは入力オフセット電圧をキャリブレーションする機能が備わっており、本機能実行後は、標準条件[注3]において±1mVです。
UVはUnder Voltage(低電圧)、OVはOver voltage(高電圧)、TSDはThermal Shut Down(過熱)、OSCはOscillator(発振器)、RPPはReverse Polarity Protection(逆接保護)、SPIはSerial Peripheral Interface(シリアル通信)、OPAMPはOPerational AMPlifier、MCUはMicro Controller Unitの略です。3相ブラシレスモーターの駆動の他に、車載用途で必要最低限の機能、システムの異常検出、保護をサポートする機能を有します。
TB9084FTGはマイコン、Nch-MOSFET、電源IC、通信PHY[注4]が個別部品で構成されるECUに搭載されることを想定しています(図2右側)。この構成は部品のトータルサイズ、コストに不利な面がありますが、システム要件の変更が生じた際に該当する部品を置き換えるのみで済みますから、変化に対して柔軟性があると言えます。
一方、モーター制御をハードロジックで行う構成があります(図2左側)。トータルサイズ、コストでメリットを享受できますが、モーターを取り巻く環境変化への対応が限られます。
また、モーター制御をマイコンで行いながら、その周辺部品を混載し1製品にした構成があります(図2中央)。メリット/デメリットはこの構成が最もバランスが取れていますが、万能部品と見られがちなマイコンもその処理能力は有限であり、システム要件の変更がその能力を超える場合、マイコン以外の機能も一新されますから変化が大きくなる傾向があります。
当社は上記3通りすべての構成に対して製品提供が可能であり、多種多様なシステム要件に対して最適なソリューションを提供します。
図2に掲載される製品については以下のページをご覧ください。
先述のとおり、個別部品で構成されるECUのデメリットは部品サイズのトータルの大きさです。そこを極力抑えるために、TB9084FTGはチップサイズを小さく、かつ端子数を減らすことで、世界最小クラス[注5]のパッケージを選択できました。そのサイズはQFNの36pinで36mm2です。
この製品のQFNパッケージは車載用途を考慮し、実装信頼性、検査性が向上するウェッタブル型を採用しています。またGND電位となる角ピンをモールド樹脂内に隠すことでピン間ショート故障による誤動作のリスクを低減しました。
電源(VB、VCC)は12Vバッテリシステム、及びジャンプスタート環境下の使用を想定しています。スペックが保証されるチップ温度は-40℃~175℃でありこれはAEC-Q100[注6]の規定においてGrade0に相当します。
ゲートドライバーの電気的特性としては、その出力電圧はVB電源が低い状態においても外付けNch-MOSFETを十分に駆動できるものとなっており、その電流能力は、ゲート入力電荷量(Qg)が55nC、ID[注7]が50A相当のMOSFETであれば20kHzのPWM[注8]制御を可能とします。主要スペックを以下に示します。
この特性を満たす当社のMOSFETについては以下のページをご覧ください。
推奨MOSFETのご紹介(TPH1R104PB)
Spec No. |
項目 | 適用端子 | 記号 | 定格 | 単位 | 条件 |
---|---|---|---|---|---|---|
8.1 | 電源電圧 | VB | Vb | -0.3~28(DC) | V | 1V/s<Vb<8V/μs(設計値) |
8.2 | 28~40(≦1s) | |||||
8.3 | VCP | Vcp | -0.3~60(DC) | - | ||
8.4 | VCC | Vcc | -0.3~6 | 1V/s<Vcc<0.3V/μs(設計値) |
Spec No. |
項目 | 適用端子 | 記号 | 動作範囲 | 単位 | 条件 |
---|---|---|---|---|---|---|
9.1.1 | 入力電圧 | VB | Vb | 5.7~28 | V | DC |
9.1.2 | VCC | Vcc | 3.0~5.5 |
特に指定がない場合、Vb=5.7~28V、Vcc=3.0~5.5V、Tj=-40~175°C
Spec No. |
項目 | 適用端子 | 記号 | 測定条件 | Min | Typ. | Max | 単位 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
9.3.1 | チャージポンプ 出力電圧 |
VCP | Vcph1 | 5.7V≦Vb<7V load = -10µA~-13mA |
Vb+7.5 | Vb+9.3 | Vb+12.5 | V |
9.3.2 | Vcph2 | 7V≦Vb≦28V Iload = -10µA~-13mA |
Vb+9 | Vb+12 | Vb+14.5 | |||
9.4.5 | ハイサイド MOSFET向け ゲートドライバー 出力電圧 |
HUO、 |
Voh1 | H*O-H*S間電圧 Iload=-100μA 7V≦Vb≦28V, H*S=0V |
7 | 10 | 12 | |
9.4.6 | Voh1_2 | H*O-H*S間電圧 Iload=-100μA 5.7V≦Vb<7V, H*S=0V |
Vcp-0.3 | - | Vcp | |||
9.4.7 | Vol1 | H*O-H*S間電圧 Iload=100μA |
0 | 0.2 | ||||
9.4.8 | ローサイド MOSFET向け ゲートドライバー 出力電圧 |
LUO、 LVO、 LWO |
Voh2 | L*O-LS間電圧 LS=0V Iload=-100μA |
6.7 | 11 | 12 | |
9.4.9 | Vol2 | L*O-LS間電圧 Iload=100μA LS=0V |
0 | - | 0.2 | |||
9.4.11 | ゲートドライバー ソース 出力抵抗 |
HUO、 HVO、 HWO、 LUO、 LVO、 LWO |
Rohh | HUI、HVI、HWI = VCC LUI、LVI、LWI = VCC Iload = -50mA |
- | 8.8 | 24 | Ω |
9.4.12 | ゲートドライバー シンク 出力抵抗 |
Rohl | HUI、HVI、HWI = 0V LUI、LVI、LWI = 0V Iload = 50mA |
3 | 6 |
ハイサイドMOSFET向けゲートドライバーはVB電圧の状態によって出力回路構成を切り替えており、VB電圧が十分な時はチャージポンプ電圧も十分高くなるためクランプされた電圧を出力し(Spec No9.4.5)、一方VB電圧が不十分な時はチャージポンプ電圧も低くなるためチャージポンプ電圧をそのまま出力します(Spec No9.4.6)。
お客様において容易にTB9084FTGの特性が確認できるよう評価ボードの無償貸し出しを行っております。もちろんエンジニアリングサンプルの提出も可能です。当社営業、当社ビジネスパートナー様にご用命をお願いします。
評価ボードのサイズは150mm×160mm。中央やや左下に本ICが実装されています。お客様の利便性を考慮し、スイッチ、ジャンパー、コネクターを適宜実装しています。
現在当社は、車載機器向けモーターを制御するICの製品ラインナップ化に取り組んでいます。お客様のご要望に応えるべく、ICに内蔵する機能やその性能を最適化した製品を市場に投入する考えのもと、車載機器の電動化や快適性向上に貢献していきます。
[注1] Electronic Control Unitの略で基板に電子部品が搭載された機器のこと。
[注2] ASIL: Automotive Safety Integrity Level(自動車安全度水準)、D: Dグレード(A~Dの最高ランク)
[注3] Ta=25℃、ゲイン設定=15、同相入力電圧=0V、出力端子負荷電流=0.5mA。
[注4] OSI参照モデルにおいて物理層を担当するICのこと。物理→Physical→PHY。
[注5] 2022年4月当社調べ。
[注6] Automotive Electronics Councilという団体が規定した車載IC向けの信頼性試験などの規格。
[注7] IDとはMOSFETのドレイン(D)に流れる電流のこと。
[注8] PWMとはPulse Width Modulationの略でモーターに印可する電力を制御する方法の一つ。
オンラインディストリビューター在庫検索&Web少量購入
オンラインディストリビューターが保有する東芝製品の在庫照会および購入が行えるサービスです。
品番は3文字以上指定して下さい。
*SmartMCD™は東芝デバイス&ストレージ株式会社の商標です。
*その他の社名・商標名・サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。