最新の機能安全規格に対応し既存製品TB9081FGに改良を加えたIC。EPSや電動ブレーキなどのブラシレスDCモーター向け
車載機器の開発では、自動車に向けた機能安全規格「ISO 26262」[注2]への対応が必要不可欠です。もちろん、その車載機器に搭載される半導体チップや電子部品も例外ではありません。この規格への対応が求められます。
今回、当社はこのISO 26262に対応した3相ブラシレスDCモーター用ゲートドライバーIC[注3]の新製品「TB9083FTG」を発売しました。安全水準はASIL-D[注4]に対応します。このICは、3相ブラシレスDCモーターを回転させる役割を果たす外付けのMOSFETを駆動するものです(図1)。3相分すべての上アームと下アームのMOSFET、つまり6個のMOSFETを駆動できます。用途は、電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)や電動ブレーキ、シフトバイワイヤーなどです。
図1 製品化した車載ブラシレスDCモーター用ゲートドライバーICの内部回路と応用回路例
すでに当社は2017年8月に、ISO 26262に対応したゲートドライバーIC「TB9081FG」を市場投入しています。今回製品化したTB9083FTGはこの従来品をベースとし、それに改良を加えることで開発しました。
ベースとなった要素は、機能の冗長化やABIST(Analog Built-in Self-test)/ LBIST(Logic Built-in Self-test)回路です。いずれもISO 26262への対応に欠かせないものです。機能の冗長化では、TB9081FGと同様にバンドギャップ基準電圧回路を2つ内蔵したほか、TB9083FTGでは新たにクロック発振回路(OSC)を2つ内蔵しました。従属故障の発生を極力抑えることが目的です。ABIST/LBIST回路は、ICに内蔵した機能の異常を検出する回路が正常に機能しているかどうかを分析する役割を担います。チェック結果は、シリアルインタフェースのSPIから出力します。
今回TB9083FTGに加えた改良点は大きく分けて3つあります。
1つは、セーフティーリレー用ドライバーを3チャネル搭載したことです。セーフティーリレーとは、モーターや外付けFETなどに異常が発生したときに、それらを電気的に切り離す役割を担う電子部品です。TB9081FGでは、このセーフティーリレー用ドライバーを5チャネル搭載していましたが、今回のTB9083FTGでは3チャネルに減らしました。お客様の声を入念にヒアリングした結果、3チャネルでも十分に対応できると判断したためです。例えば、EPSに適用した場合は、電源用リレーとバッテリー逆接保護用の駆動に2チャネルを割り当て、モーターと制御回路を切り離すモーター用リレーに1チャネルを適用するといった使い方が可能です(図2)。
図2 セーフティーリレー用ドライバーの使用例
3チャネルを用意したセーフティーリレー用ドライバーの具体的な使用例を示します。図左から順番に、電動パワーステアリング(EPS)の冗長システム、その一般的なシステム、シフトバイワイヤーの一般的なシステムの場合です。
2つ目の改良点は、実装面積が7.0mm × 7.0mmと小さい48ピンVQFNパッケージを採用したことです(表1)。TB9081FGは、実装面積が12mm × 12mmm(外部リード含む)の64ピンLQFPパッケージだったので、実装面積は約半分に減りました。小型パッケージの採用は、ISO 26262への対応と密接な関係があります。なぜならば、ISO 26262ではより高い安全性を確保するために冗長化(二重化)が有効なためです。つまりゲートドライバーICを2個搭載して、いずれか一方が故障しても、もう一方を使ってモーターを駆動し続けられるようにする必要があります。プリント基板には2個のゲートドライバーICを搭載するため、実装面積は2倍に増えてしまいます。そこで小型パッケージを採用することで、実装面積の増大を防ぎました。
表1 実装面積が半減の小型パッケージを採用
今回製品化した「TB9083FTG」と、当社従来品「TB9081FG」、競合他社(A社)品のパッケージなどを比較しました。
さらにTB9083FTGでは実装面積の削減に向けて、電流検出回路を構成するオペアンプの利得設定用抵抗や、基準電圧回路の電圧設定用抵抗を集積しました。これらの抵抗は、TB9081FGでは外付けする必要がありました。利得は、シリアルインタフェースのSPIを介して設定できます。
3つ目の改良点は、外付けMOSFETのオープンショートを検出する診断回路を内蔵したことです。上アームと下アームの中点の電圧を3相それぞれモニターすることで外付けMOSFETのオープンショートを自己診断します(図3)。診断結果は、マイコン(MCU)からSPIを介して読み取ることが可能です。TB9081FGは、外付けマイコン(MCU)に集積されたA-Dコンバーター(ADC)を使ってモーターの端子電圧を監視する必要がありました。しかしTB9083FTGを使えば、マイコン(MCU)に載せるソフトウェアのコード量を削減できるほか、診断の際に必要になる外付け抵抗を削除できます。
[注] 当社TB9081FGを指す
図3 外付けMOSFETのオープンショートの診断回路を内蔵
今回製品化した「TB9083FTG」では、外付けMOSFETのオープンショートを検出する診断回路を内蔵しました。この診断用にマイコン(MCU)のA-Dコンバーター(ADC)を使用する必要がなくなることに加えて、ソフトウェアのコード量を減らせるというメリットが得られます。また診断の際に必要になる外付け抵抗を削除できます。
今回採用した小型パッケージは、ウェッタブルフランク構造を採用しました。このため、自動光学検査装置(AOI)を使ったはんだ接合部の外観検査が容易になります。さらに、このウェッタブルフランク構造は、はんだ付け接合部の信頼性向上にも寄与しており、温度サイクル試験は3,000サイクルをクリアできることを確認済みです(表2)。
大分類 | 小分類 | 仕様 |
---|---|---|
試験条件 | 温度 | -40℃~125℃/各20分(昇降温各10分)[1cycle/h] |
試験判定基準 | 初期導通抵抗値から10%変動で不良 | |
IC種類 | パッケージ種類 | VQFN48-0707-0.50(Wettable Flank構造) |
端子めっき | Sn | |
基板 | サイズ | 35mm × 35mm × 1.6mmt |
層数 | 6層 | |
基材 | FR-4 | |
表面処理 | OSP | |
実装条件 | はんだペースト | SAC305 |
スクリーンマスク厚 | 130um | |
リフローピーク温度 | 230~250℃ | |
E-Pad実装 | 有り |
表2 実装信頼性試験の結果
ウェッタブルフランク構造[注5]を採用した48ピンVQFNパッケージの実装信頼性試験の結果です。一般的なFR-4基板に実装した場合、温度サイクル試験(TCT:Temperature Cycling Test)は3,000サイクルをクリアできます。
現在当社は、ISO 26262に対応した車載機器向け3相ブラシレスDCモーター用ゲートドライバーICの製品ラインナップを拡充する取り組みを強化しています。お客様のご要望に応えるべく、ICに内蔵する機能やその性能を最適化した製品を市場に投入する考えのもと、車載機器の電動化や安全性向上に貢献していきます。
[注1] 当社既存品TB9081FG(外部リードを含めたパッケージサイズ 12mm × 12mm(typ.))と比較した場合。
[注2] 機能安全とは、電気・電子システムの機能不全が引き起こす故障によるリスクを許容できるレベルまで下げるという考え方です。特に第三者に対して、システムが安全であることを合理的に説明できることが重要となっています。自動車向け機能安全の規格である「ISO 26262」では、機能安全を正しく実現するための開発プロセスなどが規定されています。
[注3] MOSFETを駆動するためのドライバー
[注4] ASIL(Automotive Safety Integrity Level): 自動車安全水準
[注5] パッケージのリード側面の形状
オンラインディストリビューター在庫検索&Web少量購入
オンラインディストリビューターが保有する東芝製品の在庫照会および購入が行えるサービスです。
品番は3文字以上指定して下さい。