ショットキーバリアダイオード(SBD)の特性にどのような特徴がありますか?

一般の整流ダイオードなどのPN接合ダイオードに比較して順方向電圧が小さくなりますが、逆電流(漏れ電流)が大きくなります。順方向電圧と逆電流にはトレードオフがあります。

ショットキーバリアダイオード(SBD)にはpn接合ダイオード(PND)で比べると、以下の特徴があります。

利点:
①順方向電圧VFが低い
②スイッチングスピードが早い(逆回復時間が極めて短い)

欠点:
①リーク(漏れ電流)が大きい
②逆方向耐圧が低い

PNDはp型の半導体とn型の半導体を接合してp型とn型の静電ポテンシャルの差により障壁が生じダイオード特性を実現していますが、SBDは半導体(n型半導体がほとんど)と金属(プラチナ Pt、モリブデンMo、チタンTiなど)を接合し、仕事関数*の違いからショットキー障壁が生じダイオード特性を実現しています。SBDの場合、金属と半導体の接合ですので、接合前の状態(図 e)を考えると、金属ではフェルミ順位まで電子が埋まった状態です。従って、例えばn半導体接合した状態(図 f)では、n型半導体の少数キャリアーである正孔(ホール)は電子と結びつき存在しません。電子だけが電流に関与することになります。このことからユニポーラーデバイスと呼ばれます。少数キャリアーが存在しないので、スイッチング時にオフで問題となる少数キャリアーによる逆回復時間がほとんど存在しません**。このため高速のスイッチングに適しています。

図-1 I-V特性(金属による特性の違い)
図-1 I-V特性(金属による特性の違い)

ショットキーの順方向電圧を決める電位障壁(ショットキー障壁)の高さは、選択した金属の仕事関数とSiなどの半導体の電子親和力の差によって変わります。差の少ない金属を選択することにより、順方向のオン電圧(VF、VFM)を下げることができます。(図-1)
ただし、pn接合ダイオードなどのバイポーラーデバイスでは高電流でVFを下げるため伝導度変調を利用していますが、ユニポーラーデバイスであるSBDではこの効果が無いため、ドリフト領域の不純物濃度が通常のpn接合ダイオードより高くしてドリフト領域の抵抗を下げています。このため、逆方向耐圧(VR、VRRM)が低くなるという欠点があります。最近では、通常のSiに対しワイドバンドギャップであるSiCを用いたSBDを製品化しています。SiCはSiに比較してバンドギャップが高く結合強度が高いため絶縁破壊強度が10倍あります。この絶縁破壊強度の高さからSi SBDでは実用的な耐圧が150V程度でしたが、SiCでは650V以上の耐圧を実現しています。

* 仕事関数:金属などの表面から電子1個を取り出すのに必要なエネルギー、シリコンなどの半導体では電子親和力を指す
** ガードリングに使用されているpn接合や寄生容量によりpn接合に比べると微小ですが、逆回復時間が存在します

pn接合ダイオード(PND)
pn接合ダイオードはp型の半導体とn型の半導体を接合したダイオードです。p型半導体とn型半導体のエネルギー構造を図に示します。

a)結合前
(p型とn型がそれぞれ別個に存在する状態):

p型半導体のバンド図では価電子帯には多数キャリアーであるホールがたくさんあり、伝導帯では少数キャリアーの電子は少ない状態です。n型半導体では多数キャリアーの電子が伝導帯に数多くあり、少数キャリアーのホールは価電子帯に少ししかない状態となっています。それぞれのフェルミ順位(フェルミレベル)(確率計算上でそれぞれの多数キャリアーが50%存在するエネルギーレベル)はp型では価電子帯の近くに、n型では伝導帯の近くに存在します。

 

b)無バイアス
(p型とn型を接合しているが電圧を印加していない状態)

接合すると接合面を中心にバンドが曲がりフェルミ順位(フェルミレベル)が一致します。このときp型とn型でポテンシャルの差による障壁が生じ、p型の正孔、n型の電子は制限を受けお互いの領域に拡散できません。この障壁以上のエネルギーを持つホール・電子のみ同じ密度になるように拡散します。
接合面を中心として、p型 n型それぞれの不純物濃度に反比例する形で空乏層が広がります。

a) 結合前、b) 無バイアス

c)順バイアス
(p型半導体側にプラス、n型半導体側にマイナスの電圧を印加):

順バイアス電圧分だけn型半導体のフェルミ順位(フェルミレベル)が高くなりポテンシャル障壁が下がります。このことにより障壁を超えるエネルギーを持つホール・電子が指数関数的に増加し拡散電流が流れます。接合面を中心とする空乏層は狭まります。

c) 順バイアス

d)逆バイアス
(p型半導体側にマイナス、n型半導体側にプラスの電圧を印加):

逆バイアス電圧分だけn型半導体のフェルミ順位(フェルミレベル)が低くなりポテンシャル障壁が上がります。このことにより障壁を超えるエネルギーを持つホール・電子が指数関数的に減少します。接合面を中心とする空乏層は広がります。

d) 逆バイアス

ショットキーバリアダイオード
ショットキーバリアダイオードは金属と半導体(主にn型)を接合したダイオードです。

e)結合前
(p型とn型がそれぞれ別個に存在する状態):

半導体はバンドギャップを超えた部分に空きバンドがあり、価電子はこのバンドの順位(伝導帯)に入るエネルギーを持つことで伝導電子となります。金属は価電子の存在するバンドに空き順位が存在するため電子は自由に動き回ることができます。このため図に示すようなバンド図として表現されます。また図には表していませんが、価電子帯には電子が満ちた状態にあります。

 

f)無バイアス
(金属とn型を接合しているが電圧を印加していない状態)

接合するとn型半導体の電子の一部は金属の伝導体の電子よりエネルギーレベルが高いので金属側に流れ込みます。電子が無くなることで空乏層領域が形成されます。また接合面に向かってn型半導体のエネルギー準位がフェルミ順位(フェルミレベル)が一致するように曲がります。このことによりn型半導体側の接合面にショットキー障壁が生じます。このショットキー障壁を超えるn型半導体の価電子は濃度が一致するまで金属側に拡散します。金属側には多数の自由電子がありますが、ショットキー障壁に遮られ半導体側に移動できません。n型半導体側の価電子帯にある正孔は全て金属側に流れ込みます。金属側にはこのエネルギーレベルの電子はほとんど存在しませんので、また外部から供給されないことから見かけ上消滅します。

e) 結合前、f) 無バイアス

g)順バイアス
(金属側にプラス、n型半導体側にマイナスの電圧を印加):

順バイアス電圧分だけn型半導体のフェルミ順位(フェルミレベル)が高くなりポテンシャル障壁が下がります。このことにより障壁を超えるエネルギーを持つ電子が指数関数的に増加し拡散電流が流れます。金属側に正孔はありませんので、電子のみがこの電流に関与します。このことからユニポーラーデバイスと呼ばれます。pn接合ダイオードに比べ障壁が低いので、低い電圧で電流が流れ始めます。
接合面からn型に伸びる空乏層は狭まります。

g) 順バイアス

h)逆バイアス
(金属側にマイナス、n型半導体側にプラスの電圧を印加):

逆バイアス電圧分だけn型半導体のフェルミ順位(フェルミレベル)が低くなりポテンシャル障壁が上がります。このことにより障壁を超えるエネルギーを持つ電子が指数関数的に減少します。
接合面からn型に伸びる空乏層は広がります。

h) 逆バイアス

関連リンク

製品ラインアップについては、以下のページ、ドキュメントをご参照ください。