高耐圧IPDのブートストラップ回路とは何ですか?

ブートストラップ回路は、フルブリッジ回路やハーフブリッジ回路などのハイサイド側(上アーム)のスイッチング素子のゲート駆動に用いる回路です。ダイオードとブートストラップコンデンサーで構成され、ハイサイド素子の駆動に必要なゲート駆動に必要な高電位を生成します。

図1 IGBT駆動ブートストラップ回路例:ダイオード、抵抗、コンデンサで構成され、高電圧を生成する仕組みを示す。
図1 IGBT駆動ブートストラップ回路例

図1にブリッジ回路の1レッグ (ハイサイド素子+ローサイド素子の1ペア) に対するブートストラップ回路を示します。
N-ch IGBT (もしくはMOSFET)はゲート・エミッター (もしくはゲート・ソース) に対して10~15V程度の電圧を印加して駆動します。しかしながら、ハイサイド側のエミッター(もしくはソース)の電圧は一定ではなく、回路の動作により電圧は変化します。例えば、ハイサイド素子がオンすると、コレクター・エミッター間の電位差はほぼゼロとなり、エミッター (もしくはソース) 電位は高圧電源 (ブリッジ ライン電圧) と同じ電位となります。また、ハイサイド素子がオフになりローサイド側(下アーム)のスイッチング素子がオンになると、ハイサイド側のエミッター(もしくはソース)はGND電位となります。
ハイサイドIGBTをオンさせるためには、ゲート・エミッター間の電位差が常にゲート・エミッター駆動電圧(10~15V)になるようにしなければなりません。つまり、ハイサイド側の素子がオンしているときには、ゲート駆動用の電圧は、高圧電源電圧 + ゲート・エミッター間駆動電圧(もしくはゲート・ソース間駆動電圧)が必要です。この電圧は外部から与えられる電圧より高く、ブートストラップ回路で生成する必要があります。

図2 ブートストラップ動作 ①:まずコンデンサが充電されます。
図2 ブートストラップ動作 ①

以下にIGBT駆動ブートストラップ回路の動作について説明します。

図2に示すように、ハイサイド側のIGBT Q1がオフ、ローサイド側のIGBT Q2がオンの状態では、Q1のエミッター電位はグランド(GND)まで低下します。この状態では、VCC → ダイオードDB → ブートストラップコンデンサーCB → Q2 の経路で電流が流れ、CBが充電されます。
CBの上側の電位は、制御電源電圧VCCからダイオードDBの順方向電圧VFを差し引いた値まで充電されます。一方、CBの下側の電位(Q1のソース電位)は、Q2がオンしているためGNDとなります。したがって、CBの両端にかかる電圧VCBは、VCB = VCC − VF となります。

図3 ブートストラップ動作 ②:ブートストラップ回路の動作図。コンデンサのマイナス側がVBBに上昇し、両端電圧VCBを維持することで、プラス側がVBB+VCBとなる。
図3 ブートストラップ動作 ②

その後、Q2がオフになると、CBの充電経路は遮断(DBがオフ)されますが、CBの電荷は放電されていないため、両端の電圧VCBはそのまま保持されます。この時点ではQ1はまだオフの状態であり、エミッター電位はGNDです。次にQ1をオンさせるタイミングになると、CBに蓄えられた電荷により、ゲートにはVCBの電圧が印加されます。このゲート・エミッター間の電位差VCBは、Q1をオンさせるのに十分なため、Q1は導通状態になります。
図3に示すように、Q1がオンすると、そのエミッター電位は高圧電源VBBと同じになります。この状態でもCBの電荷は保持されており、両端の電圧VCBは維持されます。CBの下側の電位がVBBであるため、上側の電位は VCB + VBB となり、高圧電源電圧を上回ります。Q1のゲート・エミッター間の電位差は引き続きVCBであるため、Q1はオン状態を維持します。

このようにブートストラップ回路は、Q1のエミッター電位にかかわらず、Q1をオンさせるために必要なゲート電位を生成する回路です。
ただし、ブートストラップコンデンサーCBを充電するためには、Q1がオフでQ2がオンとなる期間が必要です。このオフ時間が短すぎると、CBの両端電圧VCBが十分に充電されず、ゲート駆動電圧が不足する可能性があります。この点は、回路設計時に十分な注意が必要です。

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