MOSFETとIGBTの違いは何ですか?

MOSFETとIGBTは、耐圧、導通特性、スイッチング速度のトレードオフが異なるパワー半導体です。MOSFETは導通時の特性がオン抵抗(RDS(on))で評価され、高耐圧化に伴いオン抵抗が増加する傾向がありますが、高速なスイッチングに優れています。一方、IGBTはバイポーラーデバイスの特長である伝導度変調により、MOSFETで問題となるドリフト層の抵抗成分を低減できるため、高耐圧・大電流領域でも導通時の電圧降下を低く抑えられ、高電圧用途に適しています。このため、MOSFETは高速スイッチングや低~中電圧用途に、IGBTは高電圧・大電流用途に用いられています。本FAQでは、MOSFETとIGBTの動作原理や特性の違いを比較し、用途に応じた使い分けの考え方を解説します。

MOSFETとIGBTはいずれも電圧駆動型のパワー半導体ですが、MOSFETは多数キャリアーのみで動作するのに対し、IGBTは少数キャリアー注入を伴うバイポーラー動作を利用しています。このキャリアーの動作様式は、デバイスの構造に起因しています。
ここではまず構造の違いから説明し、その後に動作の違いについて解説します。

MOSFETとIGBTの構造の違い
IGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター、Insulated Gate Bipolar Transistor)は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)と同様に、絶縁ゲートによって電流を制御する電圧駆動型のパワー半導体です。
MOSFETおよびIGBTはいずれも、電流がチップ表面から裏面方向に流れる縦型(vertical)構造を採用しています。
このため、耐圧を決定するドリフト層が電流の通り道となる点が共通しています。
両者の大きな違いはチップ内部の層構成にあります。
MOSFETではドレイン側にn+層を持つ構造となっていますが、IGBTではMOSFETのドレイン側構造に相当する部分にp+層が追加され、このp+層がコレクターとして機能します。
図1および図2に、MOSFETとIGBTの記号、構造図、および簡易等価回路を示します。
図1のMOSFETの等価回路では、高耐圧化したMOSFETにおいて支配的となるドリフト層抵抗を簡略的に表現しています。なお、図2のIGBTの簡易等価回路では、少数キャリアー注入という動作原理を強調するため、PNPトランジスターとして詳細に表現するのではなく、エミッター・ベース間のpn接合をダイオードとして簡略化して示しています。

MOSFETの構造については、以下のFAQを参照してください。
> MOSFETにはどのような構造がありますか?(横型MOSFETと縦型MOSFET)

MOSFETの回路記号、縦型構造図、およびドリフト層抵抗を考慮した簡易等価回路
図1 MOSFETの記号・構造図・等価回路
IGBTの回路記号、縦型構造図、およびドリフト層抵抗とPN接合を含む簡易等価回路
図2 IGBTの記号・構造図・等価回路

MOSFETとIGBTの動作原理の違い
前章で示した構造の違いにより、MOSFETとIGBTでは電流の流れ方、すなわちキャリアーの動作原理が異なります。
本章では、MOSFETとIGBTがそれぞれどのような仕組みで電流を流しているのかを説明します。

MOSFETの動作原理
MOSFETでは、ゲート電圧を印加することでソースとドレイン間にチャネルが形成され、電流が流れます。
導通時には、多数キャリアー(電子または正孔)のみが電流を担います。
このように、MOSFETは多数キャリアーのみで動作するユニポーラーデバイスであり、キャリアーの蓄積を伴わないため、オン・オフの切り替えが速く、高速なスイッチング動作が可能です。
MOSFETの動作については、以下のFAQを参照してください。
> MOSFETの動作原理と仕組み|遮断・線形・飽和領域をわかりやすく解説

IGBTの動作原理
一方、IGBTはMOSゲートによるチャネル制御に加え、コレクター側に設けられた p+ 層 を用いたバイポーラ-動作を利用しています。
ゲート電圧を印加するとMOSチャネルが形成され、コレクター側の p+ 層から少数キャリアー(正孔)がドリフト層へ注入されます。
正孔がドリフト層へ注入されると、内部で電荷の偏りが生じないように準電気的中性*を保つ必要が生じます。そのため、ドリフト層内では正孔の増加に対応して電子の密度も同時に高い状態となります。
このように電子と正孔がともに高密度で存在することで、ドリフト層の導電率は大きく高まります。この現象を伝導度変調と呼びます。
図3は、図2の構造図をもとに、伝導度変調が生じている際のドリフト層内のキャリアーの動きを模式的に示したものです。コレクター側のp+層から注入された正孔と、エミッター側のn+層から供給される電子が、n-ドリフト層内に同時に流入している様子を表しています。
通常、ドリフト層中のキャリアー濃度は不純物濃度によって決まる平衡状態にありますが、IGBTでは少数キャリアー注入により、この平衡状態を大きく上回るキャリアーが存在する状態となります。このように注入されたキャリアーがドリフト層内に一定時間残留する状態を、キャリアーの蓄積と呼びます。

伝導度変調については、以下のFAQを参照してください。
> 伝導度変調とは何ですか?

IGBTの伝導度変調時におけるキャリアーの動きを示す模式図。コレクター側のP+層から正孔が、エミッター側のn+層から電子がn-ドリフト層へ注入されている様子を表している。
図3 IGBT伝導度変調時のキャリアーの動き

*:半導体内部のある領域において、電子(−)と正孔(+)の電荷がほぼ打ち消し合い、空間電荷がほとんど生じていない状態

動作原理の違いによる影響
MOSFETでは多数キャリアーのみが関与するため、キャリアーの蓄積がなく、オン・オフの切り替えが速い特性を持ちます。
一方、IGBTでは少数キャリアー注入と伝導度変調により、導通時の導電率が高まりますが、蓄積されたキャリアーの影響により、スイッチング速度はMOSFETに比べて遅くなります。

MOSFETとIGBTのスイッチング特性の違い
MOSFETとIGBTでは、前章で示した動作原理の違いに起因して、スイッチング時の電流・電圧の変化の仕方が異なります。
特に、ターンオフ時の挙動に大きな差があり、この違いがスイッチング速度やスイッチング損失、適した用途に影響します。

MOSFETのスイッチング特性
MOSFETは多数キャリアーのみで動作するユニポーラーデバイスであり、キャリアーの蓄積を伴いません。
このため、ゲート電圧の変化に対して、ドレイン電流は比較的速やかに増減します。
ターンオン時およびターンオフ時のいずれにおいても、電流の立ち上がり・立ち下がりが速く、高速なスイッチング動作が可能です。
この特性により、MOSFETは高周波でのスイッチングが求められる用途に適しています。

IGBTのスイッチング特性
IGBTはMOSゲートによる制御に加え、少数キャリアー注入を伴うバイポーラ-動作を利用しています。
このため、ターンオン時とターンオフ時でスイッチング挙動に特徴的な違いが現れます。
ターンオン時の特性
IGBTのターンオン時には、MOSゲートによるチャネル形成に続いて、コレクター側の p+層から少数キャリアーがドリフト層へ注入されます。
ターンオン動作自体は比較的速く行われ、MOSFETと大きな差はありません。

ターンオフ時の特性(テール電流)
一方、IGBTのターンオフ時には、ドリフト層内に蓄積された少数キャリアーが再結合・掃き出しされる過程で、電流がしばらく流れ続けます。
このように、ターンオフ後も電流が尾を引くように減衰する現象をテール電流と呼びます。
テール電流は、バイポーラ動作に伴う少数キャリアー蓄積によってIGBTのターンオフ時に現れる特徴的な現象であり、ユニポーラーデバイスであるMOSFETでは発生しません。
このテール電流の存在により、IGBTのターンオフ時間はMOSFETに比べて長くなります。

スイッチング特性の違いによる影響
MOSFETではキャリアーの蓄積がないため、ターンオンおよびターンオフが高速に行われ、高周波スイッチングに適しています。
一方、IGBTでは少数キャリアー注入と伝導度変調により導通時の導電率が高まりますが、テール電流の影響によってターンオフが遅くなり、スイッチング損失が増加する傾向があります。
このため、IGBTは高電圧・大電流用途に適している一方で、高周波動作が求められる用途ではMOSFETが用いられることが一般的です。

MOSFETとIGBTの導通特性の違い
MOSFETとIGBTでは、導通時の電圧と電流の関係、すなわち導通特性の考え方が大きく異なります。
この違いは、前章で説明した動作原理、特にキャリアーの振る舞いの違いに起因しています。

MOSFETの導通特性(オン抵抗)
MOSFETでは、導通時の電圧降下はオン抵抗(RDS(on))によって評価されます。
MOSFETは多数キャリアーのみで動作するユニポーラーデバイスであり、導通時には電圧と電流がほぼ比例するオーミック特性を示します。
そのため、MOSFETの導通時の電圧降下は、次式で近似的に表すことができます。
VDS ≈ ID × RDS(on)
高耐圧MOSFETでは、耐圧を確保するためにドリフト層が厚く、かつ低ドープとなるため、ドリフト層の抵抗成分が支配的となり、オン抵抗は耐圧の上昇とともに増加する傾向があります。

IGBTの導通特性(オン状態電圧)
一方、IGBTではMOSFETのようにオン抵抗で導通特性を表すことは適切ではありません。
MOSFETの高耐圧化で問題となるドリフト層の抵抗成分は、IGBTでは少数キャリアー注入による伝導度変調により大きく低減されるためです。
その一方で、IGBTでは裏面に追加された p+ 層とドリフト層で構成される pn 接合に起因する電圧成分が、導通時に不可避的に加わります。このため、IGBTの導通特性は単純な抵抗成分では表せず、導通時の電圧降下はオン状態電圧(VCE(sat))によって評価されます。
概念的には、IGBTの導通時電圧は次式のように表すことができます。
VCE(sat) ≈ Vjunction + rCE × IC
ここで、
Vjunction            :p+ コレクター層とドリフト層の pn 接合に由来する電圧成分
rCE × IC            :伝導度変調後のドリフト層および内部領域に残る比較的小さな抵抗成分による電圧降下
このように、IGBTでは抵抗成分そのものが支配的なのではなく、pn 接合由来の電圧成分を含んだオン状態電圧で導通特性を評価する必要があります。そのため、「IGBTはオン抵抗が低い」と表現するのではなく、「オン状態電圧(VCE(sat))が低い」と表現するのが適切です。

導通特性の違いによる影響
MOSFETではオン抵抗によって導通時の電圧降下が決まるため、電流の増加に伴い電圧降下も比例して増加します。
一方、IGBTでは伝導度変調により導通時の導電率が高い状態となるため、高耐圧・大電流領域においても導通時の電圧降下を低く抑えることができます。
図4に、IGBTと高耐圧MOSFET(SJMOS:Super-junction MOSFET)のオン電圧特性を比較した例を示します。
横軸はオン電圧(MOSFETでは VDS(on)、IGBTでは VCE(sat))、縦軸は導通電流を表しており、周囲温度25°Cおよび150°Cでの特性を示しています。
MOSFETでは、低電流領域においてオン電圧がほぼ0V付近から立ち上がるのに対し、IGBTではpn接合に由来する電圧成分の影響により、オン電圧がダイオードの順方向電圧分だけシフトして立ち上がります。
一方、高電流領域では IGBT の方が特性の傾きが急峻となり、一定電流以上の領域では MOSFET の VDS(on) に比べて IGBT の VCE(sat) が低くなります。

このように、電流の大きさによってオン電圧の振る舞いが異なる点に、MOSFETとIGBTの導通特性の本質的な違いがあります。

IGBTとMOSFET(SJMOS)のオン電圧特性比較を示すグラフ。横軸はオン電圧(VDS(on)、VCE(sat))、縦軸は導通電流で、周囲温度25℃および150℃における特性を示している。低電流領域ではMOSFETが低オン電圧で立ち上がり、高電流領域ではIGBTのVCE(sat)がMOSFETのVDS(on)より低くなる。
図4 IGBTと高耐圧MOSFETのオン電圧特性比較

導通特性とスイッチング特性の関係
IGBTでは、導通特性の改善をもたらす伝導度変調とキャリアーの蓄積が、同時にターンオフ時のテール電流を引き起こします。
このため、IGBTは導通特性に優れる一方で、スイッチング特性には注意が必要となります。

SJMOSについての説明は下記FAQにあります。参考にしてください。
> MOSFETにはどのような構造がありますか?(横型MOSFETと縦型MOSFET)

まとめ - MOSFETとIGBTの使い分けの考え方
MOSFETとIGBTは、いずれも電圧駆動型のパワー半導体ですが、構造、動作原理、導通特性、スイッチング特性が本質的に異なるため、適した用途が異なります。
MOSFETは多数キャリアーのみで動作するユニポーラーデバイスであり、導通特性はオン抵抗(RDS(on))で評価されます。
一般にMOSFETは、低~中電圧領域では非常に低いオン抵抗を実現できるという特長があります。
一方、高耐圧化したMOSFETでは、耐圧を確保するためにドリフト層の抵抗成分が増加し、オン抵抗が大きくなるという特性上の制約があります。
そのため、高耐圧化したMOSFETでは、直流動作時の導通損失は電流の増加(I² x R)とともに大きくなりますが、キャリアーの蓄積を伴わないことから、スイッチング損失を小さく抑えやすいという特性を持ちます。
一方、IGBTはMOSゲート制御に加え、少数キャリアー注入を伴うバイポーラ-動作を利用しています。
伝導度変調によりドリフト層の抵抗成分を低減できるため、高耐圧・大電流条件においても導通特性に優れ、導通特性はオン抵抗ではなくオン状態電圧(VCE(sat))で評価されます。
このため、高耐圧・大電流条件では、直流動作時の導通損失を比較的低く抑えやすいという特長があります。
一方で、ドリフト層内にキャリアーが蓄積されるため、ターンオフ時にはテール電流が発生し、スイッチング損失(特にターンオフ損失)が大きくなりやすいという特性があります。

これらの特性を踏まえると、MOSFETとIGBTは以下のように使い分けられます。

  • MOSFET
    低~中電圧領域、高速スイッチングが求められる用途
    (スイッチング電源、DC-DCコンバーター、高周波回路など)
  • IGBT
    高電圧・大電流領域、スイッチング周波数が比較的低い用途
    (インバーター、モータードライブ、産業用電力変換装置など)

導通特性(RDS(on)/VCE(sat))、導通損失(直流動作時)、スイッチング損失のトレードオフを理解したうえで、用途に応じた適切なデバイスを選定することが重要です。
表1は、本FAQで説明したMOSFETおよびIGBTの構造・動作原理・導通特性・スイッチング特性の違いを、パワー素子としての観点から簡潔にまとめたものです。参考にしてください。

  BJT MOSFET IGBT
表1 BJT、IGBT、MOSFETのパワー素子としての比較
駆動方法

電流駆動 (ベース電流)

電圧駆動 (ゲート電圧)

電圧駆動 (ゲート電圧) 

駆動電力 大きい 小さい 小さい
オン電圧 普通

高耐圧化すると高くなる傾向

低い

スイッチング速度

低速 (電子 および 正孔)

高速 (電子 または 正孔)

中速 (電子 および 正孔)

温度安定性 良くない (hFE、VBE変動) 良い 良い
高耐圧化 中程度 容易ではない 伝導度変調により容易

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