MOSFETとIGBTの違いは何ですか?

IGBTとMOSFETの主な違いは、オン抵抗とスイッチングスピードです。MOSFETはスイッチングスピードが速いですが、耐圧を高めるためにはn-ドリフト層の濃度を下げる必要があり、その結果、直列抵抗(n-ドリフト抵抗)が高くなります。 IGBTはバイポーラーデバイスであるため、伝導度変調効果を利用してオン時にn-ドリフト抵抗を下げますが、この効果によってオフ時にテール電流が発生し、スイッチングスピードが遅くなります。MOSFETはキャリアーとして電子のみを利用するユニポーラーデバイスであるのに対し、IGBTは電子と正孔の両方を利用するバイポーラーデバイスです。

図1 MOSFETの記号・構造図・等価回路:ゲートはソースとドレインの間に絶縁されて配置され、電圧でチャネルの導通を制御する。記号はこの構造を視覚的に表現している
図1 MOSFETの記号・構造図・等価回路

1. 構造
IGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター、Insulated Gate Bipolar Transistor)もMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)と同様に絶縁ゲートによる電圧制御形の素子です。IGBTはMOSFETのチップ裏面(ドレイン側)のn+層にp+層を追加し、コレクターとして機能する構造になっています。図1と図2にIGBTとMOSFETの構造図と等価回路を示します。IGBTの重要な特徴として伝導度変調があります。

図2 IGBTの記号・構造図・等価回路:MOSFETのドレイン側にp+層を追加し、コレクタとして機能させた構造。回路記号は、MOSFETのゲート構造とBJTの矢印付きエミッタを組み合わせたハイブリッド形式を表している。
図2 IGBTの記号・構造図・等価回路

2. 動作
MOSFETとIGBTはバイポーラートランジスター(BJT:Bipolar Junction Transistor)と比較して、ゲートが絶縁されていることから高い入力インピーダンスを持ち、スイッチング速度が速いという特性があります。

MOSFETとIGBTは、ゲート・ソース間またはゲート・エミッター間の電圧をしきい値電圧以上にすることで、ドレイン・ソースまたはコレクター・エミッター間が導通しオンとなります。
MOSFETのオン抵抗はn-ドリフト層の抵抗が大きく影響します。MOSFETの高耐圧化には、n-ドリフト層を低濃度化し、厚くする必要があるため、結果としてオン抵抗が高くなるという課題があります。一方、IGBTは伝導度変調によりn-ドリフト層の抵抗を低減することで、オン抵抗を小さくしています。

図3 IGBT伝導度変調時のキャリアーの動き:p+コレクター層からn−層に正孔が注入され、電気的中性を保つためにn+エミッタ層から電子も注入される。これによりキャリア濃度が増加し、n−層の抵抗が低下する。
図3 IGBT伝導度変調時のキャリアーの動き

図3にIGBTの伝導度変調におけるキャリアー(正孔と電子)の動作を示します。IGBTで伝導度変調が生じていないときは、n-層はわずかに電子が存在する状態ですが、オン状態のときにはp+コレクター層からn-層に正孔が注入されます。このままではn-層内の正孔の密度は平衡値以上になるので、電荷の中和を保つためにn+層からチャネルを介して電子がn-ドリフト層に注入され電気的中性が維持されます。これによりn-ドリフト層内の多数キャリア(正孔)と少数キャリア(電子)の両者の密度が増加し、導電率が高まります。したがって、IGBTはMOSFETに比べてオン抵抗が低く、これによりオン電圧も低くなります。

MOSFETおよびIGBTは、ゲート・ソース間またはゲート・エミッター間を短絡または逆バイアスするとゲート電荷が放電され、チャンネルが消滅し、オフとなります。ただし、IGBTはオン時の伝導度変調によってn-領域に過剰にキャリアー(電子と正孔)が蓄積されています。MOSFETではIGBTに比べてドレイン電流は迅速に遮断されますが、IGBTのターンオフではこの過剰キャリアーが消失するまで、コレクター電流は減少しながら流れ続けます。この徐々に減少する電流をテール電流と言います。

3. MOSFETとIGBTの特性比較
代表的なトランジスターとして、バイポーラートランジスター (BJT)、MOSFET、およびIGBTの3種類があります。各トランジスターの概略性能や特徴を表1に示します。BJTはドライブ回路の駆動電力やスイッチングスピードの特性面から、パワーエレクトロニクス分野のスイッチング応用にはほとんど使用されなくなっており、主にMOSFETとIGBTの2製品群がその特長を生かして使い分けられています。

図4には、30AクラスのIGBTとMOSFET(SJMOS:スーパージャンクションMOSFET)のオン電圧特性を示します。低電流領域では、MOSFETはIGBTに比べて低オン電圧特性を示しますが、高電流領域ではIGBTが優位となり、特に高温条件下ではその傾向が顕著になります。また、ユニポーラーデバイスであるMOSFETに対し、IGBTはスイッチング損失が大きくなるため、20 kHz前後よりも低いスイッチング周波数で使用されることが多くなっています。

表1 BJT、IGBT、MOSFETのパワー素子としての比較
  BJT MOSFET IGBT
駆動方法

電流駆動 (ベース電流)

電圧駆動 (ゲート電圧)

電圧駆動 (ゲート電圧)

駆動電力 大きい 小さい 小さい
オン電圧 普通

高耐圧化すると高くなる傾向

低い

スイッチング速度

低速 (電子 および 正孔)

高速 (電子 または 正孔)

中速 (電子 および 正孔)

温度安定性 良くない (hFE、VBE変動) 良い 良い
高耐圧化 中程度 容易ではない 伝導度変調により容易
図4 IGBTとMOSFETのオン電圧特性比較:低電流領域では、MOSFETはIGBTに比べて低オン電圧特性を示しますが、高電流領域ではIGBTが優位となり、特に高温条件下ではその傾向が顕著になる
図4 IGBTとMOSFETのオン電圧特性比較

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