解説:eFuse IC「TCKE8xxシリーズ」の概要
TCKE8xxシリーズは、最大18V/5Aを扱えるeFuse ICで、過電流保護、短絡保護、過電圧クランプ、突入電流抑制、低電圧誤動作防止(UVLO)、過熱保護、逆流防止(オプション)機能を備えています。過電流保護が作動する電流の制限値は外付け抵抗1本で設定できます。
特長 | |
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高耐圧入力電圧 | 18.0 V (最大) |
高出力電流 | 5.0 A (DC) |
低オン抵抗 | 28 mΩ (標準) |
調整可能な過電流保護機能 | 5.0 A (最大) |
固定過電圧クランプ回路内蔵 ※ 過電圧クランプなし品あり |
5Vライン=6.04 V (標準) 12Vライン=15.1 V (標準) |
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周辺回路例 |
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WSON10B(3.0mm × 3.0mm, t: 0.7mm (標準))
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端子 | 説明 |
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EN/UVLO | このピンには2つの機能があります。1つの機能は内部MOSFET及びEFET端子の出力電圧のイネーブル機能です。もう一つの機能は外付け抵抗により、OFF電圧の調整可能なUVLO機能です。 |
ILIM | 過電流制限値を調整する様子です。ILIM端子とGND端子間の抵抗で過電流制限値を調整します。 |
dV/dT | 立ち上がり時間を調整する端子です。dV/dT端子とGND端子間の容量で立ち上がり時間を調整します。 |
EFET | 逆流防止用Nch MOSFETのゲート電圧出力端子、逆流防止機能を使用しない場合はオープンにしてください。 |
VIN | 入力端子 |
GND | グラウンド端子 |
VOUT | 出力端子 |
TCKE8xxシリーズは過電圧クランプ電圧と復帰動作タイプで構成されています。過電圧クランプ電圧は過電圧が負荷に印加されることを防ぐためにシステム電圧に応じて設定されています。5Vライン用のクランプ電圧6.04 V(typ)品、12Vライン用のクランプ電圧15.1 V(typ)品、過電圧クランプ機能非搭載品があります。
復帰動作タイプは2つのタイプです。オートリトライタイプは障害が解消されるまで自動的に復帰を試行します。ラッチタイプは過熱保護動作時にラッチされ、障害が解消された後にENピンへの外部制御信号で復帰します。
過電圧クランプ電圧(3種類)と復帰動作方式(2タイプ)の合計6製品から選択可能です。
品名 | データシート | 過電圧 クランプ |
VEN/UVLO 動作 |
復帰動作 タイプ |
現品 表示 |
パッケージ |
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TCKE800NA | PDF(1.6MB) | N/A | Active High | Auto-retry | 800NA |
WSON10B(3.0mm × 3.0mm, t: 0.7mm (標準)) |
TCKE800NL | PDF(1.6MB) | N/A | Latched | 800NL | ||
TCKE805NA | PDF(1.6MB) | 6.04V(標準) | Auto-retry | 805NA | ||
TCKE805NL | PDF(1.6MB) | 6.04V(標準) |
Latched | 805NL | ||
TCKE812NA | PDF(1.6MB) | 15.1V(標準) |
Auto-retry | 812NA | ||
TCKE812NL | PDF(1.6MB) | 15.1V(標準) |
Latched | 812NL |
解説:TCKE8xxシリーズの各種保護機能の詳細
TCKE8xxシリーズは、以下に示す保護機能を備えており、自身および後段(負荷デバイス)の保護、ダメージや破壊のリスクを軽減することが可能です。過電流保護や短絡保護などは、負荷デバイスの障害や損傷を検出し、発煙や発火に至らないようにするため、また他に被害が及ばないようにする機能です。
過電流保護機能は、VOUTに接続する負荷の異常や短絡などで出力電流IOUTが増加すると、設定した制限値を超えないようにクランプし、電源の瞬断などを防ぐとともに自身と負荷デバイスの劣化や破壊のリスクを軽減します。ごく短い時間にIOUTが制限電流を大きく超えた場合に作動する短絡保護機能(後述)も併せ持っているので、過電流に対する保護機能は二重の備えになっています。
過電流保護が作動するIOUTの制限値は、ILIMピンに接続する外部抵抗RILIMにより簡単に設定できます。eFuse IC TCKE8xxシリーズでは、0.5A~5Aの広い範囲で設定でき、RILIMの値は算式に則り任意に設定できるので、設計の自由度が向上します。
短絡保護機能とは、eFuse IC TCKE8xxシリーズの出力VOUTにつながっている負荷、例えば電源ICなどに障害が発生し短絡(ショート)状態が生じた場合に、過電流が流れるのを防ぐ機能です。eFuse ICは、ごく短時間に出力電流IOUTがILIMピンで設定した出力電流制限値の1.6倍を超えると短絡と判定し、直ちに内部のMOSFETをオフにしてVINとVOUTを遮断しIOUTをほぼゼロに抑えます。短絡により過電流が流れ始めてから遮断までは、TCKE8xxシリーズの場合標準で150nsと非常に高速です。遮断までの時間が短ければ短いほど、負荷デバイスのダメージや破壊を低減することができ、短絡保護の高速性は電子ヒューズの性能を示す重要な特性です。eFuse IC TCKE8xxシリーズは、東芝の超高速短絡保護回路技術、Fast trip機能によってこの高速性能を実現しています。
過電圧クランプ機能は、出力電圧VOUTを設定された制限値以内に維持し、負荷デバイスへの過電圧印加を防ぐ機能です。eFuse IC TCKE8xxシリーズの入力電圧VINは最大18.0Vの印加が可能ですが、5V/12Vラインへの使用において入力過電圧から負荷デバイスを保護するために、過電圧クランプ回路を搭載した機種があります(非搭載機種もあり)。該当機種は、VINへの印加電圧を6.04V/15.1V(typ)でクランプして出力します。過電圧クランプ機能が作動すると、eFuse ICでの電力消費によって発熱が発生するため、過電流保護や短絡保護と同様に過熱保護機能が働きます。
入力過電圧と反対にVINがeFuse ICの動作電圧より低くなってしまう場合があります。その場合eFuse ICおよび後段のICが誤動作する可能性があるため、低電圧誤動作防止機能(UVLO:Under Voltage Lockout)も搭載しています。UVLO機能によりTCKE8xxシリーズは、起動時はVINが4.15V(typ)以上にならないと動作せず、起動後はVINが3.95V(typ)を下回ると動作を停止します。UVLOのしきい値は、EN/UVLOピンに分圧抵抗を外付けすることで調整可能になっています。
eFuse IC内部のMOSFETがオンして入力と出力が導通すると、出力にあるコンデンサに充電電流が一気に流れます。この電流は突入(インラッシュ)電流と呼ばれ、この電流が大きすぎると過電流保護回路が誤動作して立ち上がり不能になったり、出力電圧にオーバーシュートが発生したりする恐れがあります。突入電流抑制機能は、これらの不都合を防ぐために、出力電圧の立ち上がり(スルーレート)を制御しコンデンサへの突入電流を制限する機能です。eFuse IC TCKE8xxシリーズは、dV/dTピンへの外付けコンデンサで、出力電圧のスルーレートを制御する機能を搭載しているので、設計する回路要件に合わせて起動の最適化ができます。外付けコンデンサの容量はデータシート記載の算式、もしくはグラフから簡単に求めることができます。
起動時の波形では、VOUTの立ち上がりスルーレートが制御され穏やかに立ち上がっているので、出力にあるコンデンサへの充電電流=IOUTも穏やかに増加し、突入電流は十分に抑制されていることがわかります。
過熱保護機能は、eFuse ICのチップ温度、つまりジャンクション(接合部)温度Tjが設定値を超えると、内蔵MOSFETをオフにして出力を遮断することでeFuse ICを保護します。この遮断によってTjが下がり、ヒステリシスを持ったしきい値を下回ると復帰動作を行うタイプと、遮断後ラッチするタイプが用意されています。下図はTCKE8xxシリーズの例です。
逆流防止機能は、eFuse ICの動作停止状態(VINの電源オフやディセーブル状態など)に、入力側の出力側の電位が高くなると、内蔵MOSFETの寄生(ボディー)ダイオードを通じて、出力側から入力側に電流が逆流するのを防ぐ機能です。
TCKE8xxシリーズではこの機能はオプションで、外付けのMOSFETが1つ必要になります。逆流防止用MOSFETの制御にはEFETピンが用意されているので、回路図が示すようにMOSFETを出力ラインに追加するだけです。逆流防止用MOSFETは、推奨品と仕様がデータシートに記載されているので参照してください。
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