ダイオードの技術資料の絶対最大定格にはどのような項目がありますか?

絶対最大定格は、素子の寿命と信頼性を保証するために瞬時でも超えてはならない最大値です。主として電圧・電流・温度などに関して規定されています。

絶対最大定格の最大値は、素子を構成している材料・チップサイズ・パッケージ形状・設計・製造条件によって規制されます。データシートなどで最大定格と記載している場合、絶対最大定格と言う意味で用いています。
なお、各定格は特に記載のない場合、室温(25 °C)で規定しています。

最大定格の意義

ダイオードに流し得る電流、印加可能な逆電圧、損失などの最大許容値は最大定格値として定められています。
半導体素子による回路を設計する上で最大定格を認識することは、素子を有効に動作させ、また目標となる稼動時間に十分な信頼を確保する上からも、非常に大切なことです。

電圧定格

  1. 逆電圧
    • 直流逆電圧 VR:逆方向に印加し得る直流電圧の最大値
    • ピーク繰り返し逆電圧 VRRM:繰り返し印加できる逆電圧の最大許容瞬時値
    • せん頭逆電圧 VRM:平均電圧が次項の VR を超えない範囲内において逆方向に印加し得る交流電圧のせん頭値

電流定格

  1. 定常動作電流:Tj (max) で制限され、繰り返し印加できる項目です。
    • 平均順電流 IF(AV):指定された条件のもとで商用周波数(50 Hz、60 Hz)の正弦半波波形(導通角 180°)の流し得る最大平均電流値、または指定された条件のもとでの矩形波平均順電流
    • 平均整流電流 IO:指定された条件のもとで商用周波数(50 Hz、60 Hz)の正弦半波波形の平均電流値または直流電流の最大値
    • 直流順電流 IF(DC):指定された条件のもとで、順方向に通電できる直流電流の最大許容値
    • パルス順電流 IFP:指定された条件のもとで、順方向に通電できる指定されたパルス幅を持つ矩形波パルスの最大許容値
  2. 瞬時過電流:データシートに規定された条件で、1回のみ流し得るサージ電流です。
    • 非繰り返しピーク順電流 / ピーク1サイクルサージ電流 IFSM:指定された温度で、50 Hzの正弦半波または矩形波(10 ms)1サイクルを順方向に流したときの破壊しない最大許容電流値。この定格は単発の正弦波、または矩形波に対する定格であり、繰り返し印加する場合の規格ではありません。
    • 電流2乗時間積 I2t:10 ms 以下のパルス幅の単発正弦半波で、順方向に流すことのできる非繰り返しの最大電流値です。非繰り返しピーク順電流 IFSM と通電パルス幅 t により、下式で求めることができます。

      I2 x t = ( IFSM / √2 )2 x 0.01 (A2s)

      I:通電期間中の電流の実効値
      t:通電パルス幅

温度定格

  1. 接合温度 Tj
    接合温度はpn接合部分、またはショットキーバリアダイオードでは金属-半導体間の接合部分の最大温度です。
    この温度がダイオードが動作する最大温度になります。最大接合温度 Tj (max) は、素子を構成する材料と信頼度によって規定されていますが、接合温度 Tj は単に動作するというだけでなく、絶対最大定格の意義に記載したように劣化、寿命など信頼性とのかねあいで考えねばなりません。
    一般に素子の劣化は接合温度が高くなるにつれて加速され、平均寿命 Lm(時間)、接合温度 Tj (K) との間にはA、Bを素子固有の定数として下式の関係が認められます。
    Log Lm ≅ A + B / TJ
    これにより目標寿命を達成するための素子の接合温度が決定されます。
  2. 保存温度(Tstg):
    保存温度 Tstg は、シリコンチップ以外の素子を構成する材料の性質と信頼度から規定されます。また、保存の際には、端子の酸化などに十分注意し、保存法を配慮してください。

その他

  1. 絶縁耐圧(VISO(RMS) / Vdis):
    フルモールドパッケージ*1製品において、モールド表面部分と電極端子との絶縁耐圧を示すものです。交流電圧を規定時間印加し確認します。絶縁耐圧はAC電圧の実効値で示します。
  2. 許容損失(PまたはPD):ある周囲温度および冷却条件の下で連続的に許容できる電力損失のことです。
    通常、接合温度 TJ、周囲温度 Ta、素子の接合部から雰囲気までの熱抵抗 Rth(j-a) によって決められます。
    P = ( Tj – Ta ) / Rth(j-a)
    また、過渡期の許容損失(PPまたはPD)はデータシートの過渡熱抵抗特性により下式で算出されます。
    PP = ( Tj – 25 ) / Rth(j-a)(t)
    比較的大きく、放熱器を実装可能な製品については、接合温度 T、周囲温度 T、素子の接合部から無限大放熱器までの熱抵抗 Rth(j-c) を利用してそれぞれ示す場合があります。
    PD = ( Tj – 25 ) / Rth(j-c)          PDP = ( Tj – 25 ) / Rth(j-c)(t)
  3. 締め付けトルク(TOR):製品のネジ穴を使用してワッシャーを通したネジで取り付ける際の最大トルク許容値を示します。
    放熱器に素子をねじで取り付けるときは、締め付けトルクを管理する必要があります。締め付けトルクが低過ぎるとねじがゆるみ、高過ぎると素子を破損することになります。

ダイオードの技術資料の絶対最大定格の項目の一例を以下に示します。

項目 記号 定格 単位
繰り返しピーク逆電圧 VRRM 400 V
平均順電流(注1) IF(AV) 0.4 A
非繰り返しピーク順電流(注2) IFSM 8 A
パルス順電流(注3) IFP 14 A
接合温度 Tj 150 °C
保存温度 Tstg -55 to 150 °C

注: 本製品の使用条件(使用温度/電流/電圧等)が絶対最大定格以内での使用においても、高負荷(高温および大電流/高電圧印加、多大な温度変化等)で連続して使用される場合は、信頼性が著しく低下するおそれがあります。
弊社半導体信頼性ハンドブック(取り扱い上のご注意とお願いおよびディレーティングの考え方と方法)および個別信頼性情報(信頼性試験レポート、推定故障率等)をご確認の上、適切な信頼設計をお願いします。
注1: Ta = 114 °C セラミック基板実装時
基盤サイズ: 50 mm × 50 mm, はんだランドサイズ: 2 mm × 2 mm, 基盤の厚さ: 0.64 mm
注2: f = 50 Hz, 正弦半波, 非繰り返し印加
注3: t = 1 ms, 短形波

*1: パッケージ全体がモールド樹脂で覆われた絶縁パッケージ

これ以外にも個々のダイオードで個別の最大定格を規定しています。詳しくは以下のアプリケーションノートをご覧ください。

関連リンク

製品ラインアップについては、以下のページ、ドキュメントをご参照ください。