ダイオードの逆回復時間(trr)とは何ですか?

印加電圧を順方向から逆方向に変化させた時にすぐにオフ状態になりません。オンからオフへの遷移にはある時間が必要です。この時間のうち逆方向に電流が流れる時間を逆回復時間(trr)と呼びます。

図1 pn接合ダイオードのオンからオフへの遷移時の電流と電圧
図1 pn接合ダイオードのオンからオフへの遷移時の電流と電圧

逆回復時間(trr)を短縮するように設計されたデバイスにファーストリカバリーダイオード(FRD)、また一部のスイッチングダイオードがあります。東芝のFRDには超高速整流用ダイオード(S-FRD)と高効率整流用ダイオード(HED)があります。また、ショットキーバリアダイオードは少数キャリアーを用いないユニポーラーデバイスなので、原理的には逆回復時間はありません。

pn接合ダイオードなどのバイポーラーデバイスではデバイスがオンの時、p型半導体では少数キャリアーの電子が、n型半導体では少数キャリアーのホールが電流の運び手(キャリアー)として働きます。(詳しくは e-learning ショットキーバリアダイオードの基礎 1-3 pn接合 を参照ください)

ショットキーバリアダイオードの基礎 1-3 pn接合

また、pn接合ダイオードではオン時に低不純物濃度の層に過剰キャリアーが蓄積させることでオン抵抗を下げています。この効果は電導度変調効果として知られています。(電導度変調については、 e-learning ショットキーバリアダイオードの基礎 2-3 伝導度変調 を参照ください)

ショットキーバリアダイオードの基礎 2-3 伝導度変調

このオンの状態からオフへ移行するとき、蓄積した電荷(キャリアー)を放出する必要があります。この電荷放出に必要な時間として逆回復時間が必要になります。
時間 t0 でダイオードはオン状態からオフ状態への移行が始まります。この時点ではダイオードの電圧は正です。ダイオードは導通状態を維持していますので少数キャリアーは元の領域に戻るか再結合し、寄生の容量などに蓄積された電荷などは放電され電流は減少しゼロになり、さらにマイナスに転じます。逆方向に転じた電流を逆回復電流と呼びます。この電流のピーク値がIrrです。この時ダイオードの電圧もゼロとなります。この時点でダイオードは非導通状態となっています。まだ少数キャリアーが残っています。この少数キャリアーは、空乏層を超えて戻れないことから、再結合によって消滅するしかありません。したがって、ピーク以降の時間はライフタイムに依存します。

FRDやHEDでは白金Ptなどの重金属をドリフト領域にインプラすることで結晶欠陥を生じさせ、逆バイアス印加時に少数キャリアーをトラップさせることで逆回復時間を短縮しています。また、少数キャリアーを電流伝送に使用しないユニポーラーデバイスであるショットキーバリアダイオード(SBD)は逆回復時間がほとんど存在しません。ただし、SiのSBDは耐圧が60 Vまでしかありません。ワイドバンドギャップ半導体であるSiC SBDは高い絶縁破壊強度から650 Vの耐圧を実現しています。
最近、電子機器では小型軽量化が求められています。電源で最も大きな体積を占めるトランスの縮小をスイッチング周波数の高周波数化により進めています。
このためスイッチング損失の低減が求められており、従来にも増して逆回復特性の向上が求められています。
この目的のため当社では650 VのSiC SBDを開発し提供しています。

関連リンク

逆回復時間に関しては下記にも情報がありますので、参考にしてください。

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