静電気が侵入したときに被保護素子が劣化・破壊しないこと

静電気が侵入したとき、ESD保護素子がオンします。静電気が侵入したときに大電流がESD保護素子に流れます。この大電流がながれるときの電圧はクランプ電圧VCで定義されています。オンした状態では、ESD保護素子と被保護素子は平行に接続されている形になります。また、実際にはオンするまでにわずかですが立ち上がり時間が存在します。
従って、オンするまでの時間は静電気が被保護素子に印加されます。また、オンした後でもオン電圧以下の電圧(逆方向降伏電圧以下)被保護素子に印加されることになります。このとき、ESD保護ダイオードと被保護素子のそれぞれのインピーダンスに反比例する形で電流が流れます。オン時のESD保護ダイオードのインピーダンスはダイナミック抵抗で定義されています。

保護素子には色々な種類がありますが、ダイオードタイプのESD保護素子は以下の点に特長があります。

  • ESD侵入時の保護指標の一つであるダイナミック抵抗が小さい(小さな容量でも)
  • ESD侵入時の立ち上がりが早い
  • ESDが複数回印加されてもデバイスは劣化しない

クランプ電圧の異なる3製品を実装し、ESDを印加したときの保護対象の入力端で測定を行った結果を以下に示します。この試験はアンテナ端での試験ではなくコネクターへの印加試験結果ですが、参考のために掲載します。比較的特性の近いDF2B5M5SLとDF2B5M4SLの結果を見ても、1st Peak Voltageで約50%の差があることがわかります。

図 5   クランプ電圧がESD保護性能に与える影響
図 5   クランプ電圧がESD保護性能に与える影響

図 5 クランプ電圧がESD保護性能に与える影響
(クランプ電圧の異なるESD保護用ダイオード)

被保護素子を劣化・破壊から守るためには以下の点に注意が必要です。

  1. クランプ電圧の低い素子を選択する
  2. 低い逆方向降伏電圧 (VBR) 、またはピーク逆動作電圧 (VRWM) の素子を選択する
  3. 低ダイナミック抵抗の素子を選択する

上記2.は前項「静電気が侵入していない通常時に信号が劣化しないこと」の3.とは矛盾した内容になります。ESD保護用ダイオードを選定する場合に、RF ICなどのESD耐量を確認し、この耐量レベルを超えるESDのエネルギーを吸収するESD保護用ダイオードを選択することで矛盾を回避し、システムトータルでESDに対する耐性を強化することができます。