ESD保護ダイオードとバリスターの違いは何ですか?

静電気保護素子として、ESD保護ダイオードとバリスター(金属酸化物バリスター MOV)が良く使用されています。 ESD保護ダイオードは立ち上がりのスピードが速く、また立ち上がり後の直列抵抗(ダイナミック抵抗)が低いことがあげられます。バリスターは許容電流量が大きく、大容量の素子を構成することが可能なことが特徴です。ただし素子の構成上バリスターは低容量と低電圧を両立することが困難です。

ダイオードは逆方向に電圧を印加するとある電圧で急激に電流が増加します。この電圧は精度が高いことが特徴で、不純物濃度などで目標の電圧値を変えることが可能です。逆バイアス方向を中心に使用するので、片方向と言われます。ただし順方向も固定値である順方向電圧VFでオンするため、ESDなどから非保護素子を守ることができます。ただし、ESD保護ダイオードでも小型パッケージでカソードコモン接合した双方向特性を持つ製品もあります。
(片方向・双方向に関しては、下記FAQを参照ください。)
プラス/マイナス両極のESDに対応するのですが双方向のTVSダイオード(ESD保護ダイオード)を選択する必要がありますか?

一方、バリスターは結合剤を挟んで金属酸化物粒子が配置される構造となっており、この構造により結合剤の両側にショットキー接合(2重ショットキー障壁)が存在します。ちょうどダイオードのアノードコモン接合のような構成です。電圧印加により片側のショットキーが逆バイアスとなり、ZnOを金属酸化物とする構成では、1ジャンクションあたり約3 Vの逆バイアスで急激に電流が増加します。高い電圧値を作る場合、多数のジャンクションを跨ぐように金属酸化物と結合剤によるセラミックを厚くします。
このことから、バリスターは双方向の特性となります。
また構造も大きく異なります。ESD保護ダイオードはSi基板上に形成したダイオードであるのに対し、バリスターは金属酸化物粒子と結合剤を燃焼したセラミックです。内部に存在する金属酸化物粒子と結合剤で形成される複数のダイオードによって構成されます。直列に接続されるダイオードの数によりバリスター電圧が決まります。

特性の主な違いは以下になります。

  • バリスターは双方向、ESD保護ダイオードは単体では片方向
    (ただし、ESD保護ダイオードは2つのダイオードのカソードを共通で接続して双方向に対応した製品を量産中)
  • バリスターはESD印加後に特性が劣化する可能性がある
  • ESD保護ダイオードは立ち上がりが早い

内部構造と動作:
ESD保護ダイオードはSi基板上に構成されるダイオードのツェナー特性を利用した素子で、ESD印加時には1つの経路に放電電流が流れます。これに対し、バリスターは金属酸化物(ZnOなど)の粒子と酸化ビスマスなどの結合剤を押し固め高温で焼結させたセラミック板を電極で挟んでいます。保護は金属酸化物粒子と結合剤間に存在するショットキー接合によって行っています。この接合は非常にたくさん存在しており、電極間に複雑な直・並列回路網を構成します。1つの接合で約3 Vのツェナー電圧の場合、バリスター電圧が30 Vであれば、10個のブレークダウンした接合を経由していることになります。この10個の直列した経路が複数並列に接続されることで大きな許容電流を実現しています。ただし、その経路長はさまざまで直列抵抗値が異なるため、立ち上がり波形はESD保護ダイオードのハード波形と異なりソフト波形です。これが立ち上がり時間が遅いと言われるゆえんです。このため、同一容量の製品を比較すると1stピーク電圧はESD保護ダイオードの方が低くなります。

また、バリスターではそれぞれの経路に流れる電流の大きさもさまざまです。一部の経路に電流が集中することで、接合が融解しESD印加後に性能が劣化することがあります。
このようなことから、繰り返しESDが印加される可能性の高い外部に露出している電極などの保護に対してはESD保護ダイオードが最適と言えます。

図-1 バリスタ
図-1 バリスタ
図-2 ESD保護ダイオード
図-2 ESD保護ダイオード

関連リンク

以下の資料にも関連する説明がありますので、ご参照ください。

FAQ

アプリケーションノート

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