IGBTとは?

IGBTは絶縁ゲート型バイポーラートランジスター(Insulated Gate Bipolar Transistor)の略で、入力部がMOSFET構造、出力部がバイポーラートランジスター構造のデバイスです。図1にIGBTの記号、図2に簡単なIGBTの等価回路を示します。IGBTはゲートに電圧を印加すると、MOSFET部分がオンになり、結果としてコレクター・エミッター間に電流が流れる構造です。

図1 IGBTの記号 (N-ch IGBT):ゲート、コレクタ、エミッタの3端子からなり、MOSFETとBJTのハイブリッド構造を反映してMOSFETのようなゲート構造と、BJTのような矢印付きのエミッタが組み合わさった形をしています。
図1 IGBTの記号 (N-ch IGBT)
図2 IGBTの等価回路:NチャネルIGBTは、NチャネルMOSFETとPNP型バイポーラトランジスタ(BJT)で構成される。電流はコレクタからBJTのエミッタ-ベース間を通り、MOSFETのドレイン-ソース間を経てエミッタへ流れる
図2 IGBT等価回路

IGBTは、MOSFETとバイポーラートランジスター(BJT)の特長を組み合わせた半導体デバイスです。IGBTは、入力部にMOSFET構造、出力部にBJT構造を持っています。
MOSFETの特長

  • 入力インピーダンスが高く、スイッチング速度が速い
  • ただし、高耐圧化するとオン抵抗が大きくなるという欠点があります

BJTの特長

  • オン電圧が低く、電力損失が少ない
  • しかし、入力インピーダンスが低く、スイッチング速度が遅いという弱点があります

IGBTは、これら両者の長所を活かし、短所を補うことで、

  • 高い入力インピーダンス
  • 比較的速いスイッチング速度
  • 高耐圧でも低いオン電圧

という優れた特性を実現しています。これにより、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなどの民生機器から、エレベーター、ロボット、工作機械などの産業用用途に幅広く使用されています。

図3にIGBTの構造図を示します。IGBTはMOSFETのチップ裏面 (ドレイン側) のn+層にp+層を追加し、コレクターとして機能する構造になっています。 IGBTの重要な特徴として伝導度変調があります。MOSFETはキャリアーとして電子のみを利用するユニポーラーデバイスであるのに対し、IGBTは電子と正孔の両方を利用するバイポーラーデバイスです。図4にIGBTのチップ構造からの等価回路を示します。この等価回路は、NチャンネルMOSFETとPNP BJTを基本構造としています。

図3 IGBT構造図:MOSFETのドレイン側のn+層にp+層を追加し、コレクターとして機能する構造になっています。この構造により図-4に示す寄生のBJTなどが実際には存在します。
図3 IGBT構造図
図4 IGBTチップ構造から抽出した等価回路:図-3の構造図に合わせて通常の等価回路とは上下逆に表示している。寄生のBJTや抵抗が存在
図4 IGBTチップ構造から抽出した等価回路 (構造図に合わせて、上下を反転して表示)
図5 IGBT電導度変調キャリアー動作と等価回路:p+コレクター層からn−層に正孔が注入され、電気的中性を保つためにn+エミッタ層から電子も注入される。これによりキャリア濃度が増加し、n−層の抵抗が低下する。
図5 IGBT伝導度変調キャリアー動作と等価回路

図 1の等価回路図には記載されていませんが、図4に示すように寄生のNPN BJTとPNP BJTによってサイリスターが形成されています。このため、熱などの影響によりこのサイリスターがオンになると、IGBTはラッチアップしてコレクター・エミッター間が短絡し、過電流が流れ破壊に至る可能性があります(熱暴走)。実際には、寄生のNPN BJTのベース・エミッター間抵抗(p領域抵抗)は非常に小さく設計されており、短絡に近い状態です。したがって、この寄生NPN BJTは基本的にトランジスターとしてオンになることはなく、近年のIGBTではラッチアップ現象は基本的に発生しません。

IGBTのコレクター電流のほとんどは、PNP BJTのエミッター (IGBTのコレクター) からベースに流れます。この電流はドリフト層(n-)を通り、MOSFETのドレイン・ソースを経由してIGBTのエミッターに到達します。これが電流の主経路となります。この主経路のロスを決めるドリフト層による抵抗は、伝導度変調により低抵抗化されます。

このIGBTの重要な特徴である伝導度変調を以下に説明します。伝導度変調はpnジャンクションダイオードやBJTなどのバイポーラ-デバイスに共通する基本的な特性です。MOSFETやショットキーバリアダイオード(SBD)などのユニポーラーデバイスには存在しません。
伝導度変調は、IGBTのp+層からn-層に正孔を注入する事で実現されます。このプロセスにより、キャリアー密度が増加することで、n-層の導電率が向上し、結果としてオン抵抗の低減が可能になります。図5 に伝導度変調のキャリアー (正孔と電子) の動作と等価回路を示します。
更に説明すると、IGBTがオン状態のとき、p+コレクター層からn-層に正孔が注入され、n-層内の正孔の密度は電気的な平衡値を超えます。正孔が過剰な状態にならないように(平衡を保つために)n+層からチャネルを介して電子がn-ドリフト層に注入されます。これにより、n-ドリフト層内の多数キャリアー(電子)と少数キャリアー(正孔)のそれぞれの密度が増加し、導電率が高まります。

IGBTをオンからオフに遷移するためには、ゲート・エミッター間を短絡または逆バイアスします。これによりゲート電荷が放電され、チャンネルが消滅してMOSFETはターンオフとなります。しかしながら、IGBTのコレクター電流はすぐには遮断されず「テール電流」と呼ばれる電流が流れ続けます。これはオン時に伝導度変調としてn-層に蓄積された過剰な電子と正孔が残存していることから生じる電流です。このテール電流は、オン状態でn⁻層に蓄積された過剰キャリア(電子と正孔)が再結合するまでの間(再結合時間)、徐々に減衰しながら流れ続けます。
この現象は、IGBTを利用した回路のスイッチング損失に影響を与えます。IGBTを使用する上で認識しておくべき重要な要素です。

伝導度変調とテール電流については、以下のFAQにも説明があります。参考にしてください。

関連リンク

製品ラインアップについては、以下のページ、ドキュメントをご参照ください。

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