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IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)は、MOSFET の高入力インピーダンスと BJT の低オン電圧特性を組み合わせたパワーデバイスです。高耐圧・大電流用途に適しており、家電から産業機器まで幅広く使用されます。
IGBTの基本構造と動作
IGBTは、入力部が MOSFET 構造、出力部がバイポーラートランジスター(BJT)構造で構成されます。
ゲートに電圧を印加すると MOSFET 部分がオンとなり、コレクター–エミッター間に電流が流れます。
図1はN-ch IGBTの記号を示します。
図2はN-ch IGBTの等価回路です。
IGBT で大電流を扱える理由や、内部でキャリアーがどのように振る舞うか(伝導度変調)は、この後の章で詳しく説明します。
動作に関しては、以下のFAQに説明がありますので、参考にしてください。
図1注記:
図1のゲート側の縦棒と他の端子の縦棒が離れた形で平行に記載されている部分は、ゲートが他の端子から絶縁されていることを表しています。また、コレクターとエミッターの矢印は電流の向きを示しています。コレクターとエミッターの間に描かれた縦棒は、MOSFETのゲート制御によって電流経路が形成されることを象徴的に示したものです(実際のチャネル形状を示すものではありません)。
図2注記:
図2の青実線はオン時の主な電流経路を表します。外部コレクター端子はチップ裏面の p⁺層(PNP BJT のエミッター側)に対応し、流れ込みした電流はMOSFET経由でエミッターへ向かう構造になっています。これにより、IGBTはMOSFET と BJT の複合的な動作を示します。
MOSFET・BJT・IGBTの特徴比較
IGBTは、MOSFETとBJTの長所を組み合わせることで、両者の特性を活かしたデバイスです。
これらの特性により、エアコン・冷蔵庫・洗濯機・電子レンジなどの民生機器、エレベーター・ロボット・工作機械などの産業機器に幅広く採用されています。
IGBTの構造
IGBTは、MOSFET構造とバイポーラートランジスター(BJT)構造を組み合わせた縦型パワーデバイスです。
ゲート電圧により MOSFET 部分にチャネルが形成されると、コレクター–エミッター間に電流が流れます。
図3に N-ch IGBT の全体構造、図4にその構造に対応した等価回路を示します。
IGBT の一般的な構造は、横型 MOSFET のドリフト層(n⁻層)の下側に p⁺層を追加した縦型構造になっており、この p⁺層が外部コレクターとして機能します。
図4は、IGBTの基本構造に基づいて導かれた等価回路を示しています。
この等価回路には、一般的な簡略化された等価回路には含まれない寄生NPN BJTなどが含まれています。
これらの寄生素子によりサイリスター構造が形成されます。この構造に起因するラッチアップについては後述します。
MOSFET のドレイン側(チップ表面)で形成されるチャネルを通じて電子が n⁻層に流入し、同時に p⁺層側から正孔が注入されることで、ユニポーラーデバイスである MOSFET とは異なるバイポーラ-動作の電流経路が生じます。
この縦方向の層構造が、IGBT が高耐圧・大電流用途に適する理由の基礎となります。
その他のIGBTの構造に関しては、下記e-learningに説明があります。
> 3-18. IGBT:縦方向デザインの進化
また、IGBTのエミッター・コレクター間にフリーホイールダイオードを併設した RC-IGBT の構造については以下を参照してください。
> 逆導通IGBT (RC-IGBT) とは何ですか?
寄生サイリスター構造とラッチアップ
図4に示すように、IGBT 内部には寄生 NPN トランジスターと PNP トランジスターが存在し、結果としてサイリスター構造が形成されます。
この寄生サイリスターが熱や異常条件でオンするとラッチアップが発生し、コレクター–エミッター間がほぼ短絡状態となり、過電流により破壊に至る可能性があります。
しかし、寄生 NPN のベース–エミッター間抵抗(p領域抵抗)は非常に小さく設計されており、寄生 NPN の能動的オンは抑制されています。そのため、近年の IGBT ではラッチアップはほぼ発生しない構造となっています。
伝導度変調
MOSFETでは、素子の高耐圧化を進めるとオン抵抗が高くなる傾向があります。
IGBTでは、このような高耐圧化に伴うオン抵抗の増加を抑えるために、伝導度変調という動作原理が用いられています。
IGBT のコレクター電流のほとんどは、PNP BJT のエミッター(IGBT のコレクター)からベースへ流れます。この電流はドリフト層(n⁻)を通り、MOSFET のドレイン・ソースを経由して IGBT のエミッターに到達します。これが IGBT の主な電流経路です。
このドリフト層の抵抗は 伝導度変調 によって低減されます。伝導度変調は、pn 接合ダイオードや BJT などのバイポーラーデバイスに共通する特性であり、MOSFET やショットキーバリアダイオード(SBD)などのユニポーラーデバイスでは発生しません。
IGBT がオンになると、p⁺ コレクター層から n⁻ ドリフト層へ大量の正孔が注入されます。正孔の増加によって n⁻ 層で電荷のバランス(電気的な中性)が崩れるため、この不均衡を補うために、n⁺ 層側から MOSFET のチャネルを通じて電子も注入されます。その結果、n⁻ 層内では 電子・正孔の両方のキャリアー密度が大幅に増加し(高レベル注入)、導電率が向上します。
つまり、伝導度変調とは「電子と正孔の双方が増加することで n⁻ 層の抵抗が低下する現象」です。
図5 には、伝導度変調時におけるキャリアー(正孔と電子)の動作と、伝導度変調を表現した等価回路を示します。ここでは、外部コレクター端子(C)につながる PNP BJT をダイオードとして表し、さらに伝導度変調によって変化するドリフト層の抵抗を 可変抵抗 として示しています。
テール電流
IGBT をオンからオフに遷移させる際には、ゲート・エミッター間を短絡または逆バイアスします。これによりゲート電荷が放電され、チャンネルが消滅することで MOSFET 部分はターンオフします。
しかし、IGBT のコレクター電流はすぐには遮断されず、「テール電流」と呼ばれる電流がしばらく流れ続けます。これは、オン時の伝導度変調によって n⁻ 層に蓄積された過剰な電子と正孔が残存しており、これらのキャリアーが再結合して消滅するまで電流が徐々に減衰しながら流れ続けるためです。
このように、スイッチをオフしても電流が尾を引くように流れる現象を テール電流 と呼びます。テール電流は IGBT のスイッチング損失に大きく影響するため、回路設計上の重要な要素となります。
伝導度変調とテール電流については、以下のFAQにも説明があります。参考にしてください。
> 伝導度変調とは何ですか?
> IGBTのテール電流とは何ですか?
製品ラインアップについては、以下のページ、ドキュメントをご参照ください。
* このFAQ内で使用している社名・商品名・サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。