近年、自動車業界では100年に一度の変革期とも言われており、様々な技術トレンドが注目されています。その一つであるカーボンニュートラルを目指す取り組みとして自動車の電動化が進み、車載用パワー半導体をはじめとする多様な電子部品が搭載されています。
環境課題への対応や自動化、利便性・快適性を高める技術トレンドがある一方で、システムが大規模かつ複雑化し、安全性や信頼性を確保するために必要な厳密な検証作業が課題となっています。限られたリソースの中でシステム全体の検証が困難となりつつあります。仮にある部品が仕様を満たさなかった場合、セットメーカーと部品メーカーの双方にとって後戻りが生じ、開発期間やコストの増加を招くことにもなります。そこで、近年では自動車業界全体でモデルやシミュレーションを活用した効率的な開発手法としてMBD(Model Based Development)の導入が進んでいます。
当社がMBD実現に向けた役割を考えると、第1に顧客であるセットメーカー・ユニットメーカーに設計環境で動作するモデルを提供することが求められます。具体的な取り組みとして、顧客設計環境の様々なツールに対応したデバイスモデルであるSPICEモデルや熱解析用モデルを提供しています。
車載半導体はシステムレベルでの上位設計段階では理想半導体として扱われることが多く、上流のセットメーカーやユニットメーカーで行われるMBDと、下流の部品メーカーのMBDでは、モデル粒度の側面でギャップがあるのが現状です。例えばハード検証の段階で高耐圧・大電流を扱うパワー半導体で熱やノイズがシステムへ及ぼす影響が問題となるケースが多く、課題となります。
そこで、当社はそれを改善する取り組みとして、車載パワーMOSFETやICの熱設計やEMI(電磁干渉)ノイズ検証が可能となる独自の縮退技術による解析方法を提案しています。
当社にてご提供可能な車載半導体モデルについて下表に示します。
車載半導体モデル | 電気モデル | 熱解析用モデル | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
ツール/フォーマット | Pspice® |
LTspice® | SIMetrix™ | ELDO® |
Xpedition AMS | STEP形式 | |
ディスクリート半導体 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | 〇 | ◎※2 | |
IC | モータードライバー | ◎※1 | ー | ー | ー | 〇 | 〇※3 |
IPD(Intelligent Power Device) | ◎※1 | ー | ー | ー | ー | 〇※3 | |
車載通信用IC(CXPI) |
ー | ー | ー | ー | 〇 | 〇※3 |
◎;モデル提供可・WEB公開中
〇;モデル提供可・要問合せ
※1;一部提供可
※2;熱解析用簡易CFDモデルをWEB公開中、詳細モデルは要問合せ
※3;詳細モデルは要問合せ
車載ディスクリート半導体製品の電気モデルとして、2種類の粒度のSPICEモデルを準備しています。ひとつは、計算速度が速くファンクションチェックに適したG0モデルです。
もうひとつは、MOSFET製品に対して当社が独自で開発したG2モデル(高精度SPICEモデル)です。G2モデルはBSIM3をベースとしたマクロモデル形式で作成されており、極力少ない素子数と連続的な任意の関数を用いた非線形素子を用いて対象となる素子の電気特性を表現しています。その結果、従来のマクロモデルのデメリットであるノード数の増加による回路シミュレーションの収束性や計算速度の低下を可能な限り抑えているなどの特長があります。さらにID-VDSカーブの高電流領域特性や非線形性のある容量特性の再現性に優れており、実測に近い高精度なシミュレーションを可能にしています。また、パッケージの寄生成分も考慮されており、スイッチング時に発生するリンギングやEMIの解析が可能です。詳細な内容は下記アプリケーションノートよりご確認ください。
車載ディスクリート半導体のMBD取り組みのご紹介(PDF:1.74MB)
G2モデル(高精度SPICEモデル)は下記リンクよりご紹介をしています。
パワーデバイスの過渡特性をより正確にシミュレーションできる高精度SPICEモデル
各種シミュレーションツールに対応したSPICEモデルを提供しております。
具体的には表に示すPSpice®とLTspice®用モデルに加えて、SIMetrix®モデル、ELDO®モデルもWeb公開をはじめました。各種モデルは下記より確認できます。
EDA/CADモデル ライブラリー
ディスクリート半導体製品の熱解析用簡易CFDモデルの詳細を下記リンクより紹介をしています。
熱シミュレーションモデル:三次元熱流体解析に対応した簡易CFDモデルをMOSFETで拡大中
開発中のICのモデルを用いた機能検証、熱解析、EMC解析、制御解析について紹介します。各解析用モデルのご利用やご検討については、お問い合わせページ下段のリンク先よりご連絡ください。
当社では車載モーターシステムや車載通信システムに注力してICの新製品を開発しています。図1には、Xpedition AMSを利用して組み合わせた、Hブリッジ用ゲートドライバーIC(TB9103FTG:開発中)のモデル、パワーMOSFET(G2)モデル、およびモーターなどの機械モデルを用いたシミュレーションの一例を示しています。図2はICの入力端子(IN1,IN2)に正転、反転を繰り返す制御信号を入れ、駆動する各MOSFETにかかる電圧をモニタリングした結果を示しています。図2の下段では、破線で示された期間中のハイサイドMOSFETのゲート電圧(V(GH1))とソース電圧(V(SH1))を拡大表示しています。このICモデルを使用することで、ICの動作やMOSFETの駆動時の挙動を詳細に分析することができます。
* 本モデルは開発中で更に改善や修正を行っておりシミュレーションの構成や結果は変わる可能性があります。
車載電子機器では、高密度実装、高い周囲温度など使用環境は厳しくなっており、電子部品の選択と配置、基板設計等の影響により様々な熱問題が発生します。それを未然に防ぐために、開発の上流で熱解析を実施する必要性が高まっており、当社ではICの熱解析用として、STEP形式の詳細モデルをご用意しています。リストにない製品も含めて、モデル利用については、お問い合わせください。
大分類 | 品番 | 特長 | パッケージ | 熱解析用 モデル |
---|---|---|---|---|
CXPI | TB9032FNG | CXPI ドライバーレシーバー | P-SOP8-0405-1.27-002 |
STEP形式 |
ブラシ付 モータードライバー |
TB9051FTG | H-Brigdeドライバー(1ch) | P-QFN28-0606-0.65-001 | |
TB9052FNG | DCブラシモーターゲートドライバー(1ch) | HTSSOP48-P-300-0.50 | ||
TB9053FTG | H-Bridgeドライバー(2ch) | P-QFN40-0606-0.50 | ||
TB9054FTG | H-Bridgeドライバー(2ch) | P-VQFN40-0606-0.50 | ||
TB9056FNG | LIN内蔵H-Bridgeドライバー(1ch) | SSOP24-P-300-0.65A | ||
TB9057FG | DCブラシモーターゲートドライバー(1ch) | LQFP48-P-0707-0.50 | ||
TB9058FNG | LIN内蔵H-Bridgeドライバー(1ch) | SSOP24-P-300-0.65A | ||
ブラシレス モータードライバー |
TB9061AFNG | 3相センサーレスモーター用ゲートドライバー | SSOP24-P-300-0.65A | |
TB9080FG | 3相ブラシレスモーターゲートドライバー (正弦波コントロールロジック内蔵) |
LQFP64-P-1010-0.50E | ||
TB9081FG | 3相ブラシレスモーターゲートドライバー | QFP64-P-1010-0.50C | ||
TB9083FTG | 3相ブラシレスモーターゲートドライバー | P-VQFN48-0707-0.50-005 | ||
ステッピング モータードライバー |
TB9120AFTG | 2相バイポーラーステッピングモータードライバー (励磁モード:~1/32) |
P-VQFN28-0606-0.65 | |
SmartMCD™ | TB9M003FG | 3相ブラシレスモーターゲートドライバー | P-HTQFP48-0707-0.50-001 |
* STEP形式はISO標準で多くの3D CADツール間での互換性があり、Flotherm™、Icepak™など様々な流体解析ツールで使用可能です。
自動運転の実現やシステムの高度化により車載通信ネットワークで扱う情報量が増加しています。そのような環境下で安全性と信頼性を確保するためには、EMC対策がより一層重要になっています。しかし、車内の複雑な電磁環境下で機器間の相互干渉を考慮に入れた車載システムの設計は非常に困難です。当社では、EMC対策を初期段階から取り入れるフロントローディングを実現するために、モデルの開発と改善に努めています。
当社は、マイコン内蔵ゲートドライバIC「SmartMCD™」シリーズの第一弾製品「TB9M003FG」の量産出荷を開始しました。これに伴い、SmartMCD™を使用したモータ制御の開発を実機なしで行えるよう、MATLAB®/Simulink®でSmartMCD™のハードウェア機能を再現したハードウェアブロックセットと、その機能を利用した速度制御モデルを用意しています(図5)。当社の制御モデルをモーターモデルや負荷モデルと組み合わせたシミュレーションにより、SmartMCD™を使用したシステム制御をモデル上で評価できます。さらに、制御モデルからハードウェア依存のデバイスドライバを組み合わせるソフトウェアの自動生成機能も開発中です。自動コード生成機能を使用することで、評価済みのモデルを容易に実機に移行することが可能です。モデルを活用したシミュレーションによる制御評価やキャリブレーション、さらに自動コード生成による実機との連携を通じて、モデルベース開発を実現し、開発プロセスを効率化します。
* SmartMCD™は東芝デバイス&ストレージ株式会社の商標です。
* PSpice®は、Cadence Design Systems, Inc. の登録商標です。
* LTspice®はADI社(Analog Devices、Inc.)のシミュレーション・ソフトウェアおよびその登録商標です。
* SIMetrix®はSIMetrix Technologies Ltd.のシミュレーション・ソフトウェアおよびその登録商標です。
* Xpedition AMSは Siemens EDA社のシステムシミュレーターです。
* Flotherm™は Simens社のシミュレーション・ソフトウェアおよび商標です。
* Icepak™は Ansys, Inc.のシミュレーション・ソフトウェアおよび商標です。
* MATLAB®/Simulink®は、MathWorks, Inc.のシミュレーション・ソフトウェアおよびその登録商標です。
* VenetDCP®は、東芝デジタルソリューションズ株式会社の登録商標です。
* その他の社名・商品名・サービス名などは、それぞれ各社が商標として使用している場合があります。