eFuse ICは、ホットスワップ(活線挿抜)の用途に使用できますか?

ホットスワップでボードやコネクターを取り付けるときに問題となる突入電流の対策にeFuse IC(電子ヒューズ)は有効です。eFuse ICには突入電流抑制機能だけでなく、過熱保護機能・短絡保護機能・過電圧保護機能・逆流防止機能なども内蔵しており、より堅牢なシステムの構築が可能です。

通信機器やネットワーク装置、データセンターのサーバーやストレージシステムなどは、システムを稼働させながら故障したボードやモジュールの交換や増設、ケーブルなどのつなぎ変えを行います。またコンピューター機器やスマートフォンなどの移動体機器では、USBやHDMIなどのケーブルを電源オンの状態で抜き差しすることが一般的です。このように電源などを停止しない状態で、システムの動作に影響を与えずにコンポーネントを追加または削除することをホットスワップ(活線挿抜)と呼びます。厳密には異なるようですが、同義語としてホットスワップはホットプラグと呼ばれることもあります。
これから説明する内容は、ホットスワップ対応のスタガコネクター(ソケット)を使用していることが前提になっています。このコネクターはGNDが長いなどの工夫がされており、挿入時は最初にGNDが接触、抜取り時は最後にGNDが離れるようになっています。

図1 ホットスワップ対応機器
図1 ホットスワップ対応機器

ホットスワップには2つのモードがあります。
① 機器が動作している状態で、ボードやケーブルを差し込む
② 機器が動作している状態で、ボードやケーブルを抜き取る
これらの動作により、機器内で電源電圧などに問題が生じることがあります。図1に示すようなボードを抜き差しする機器を考えます。

図2 ボードを差し込んだ時の機器の状態
図2 ボードを差し込んだ時の機器の状態

① ボードを差し込むとき
図2は差し込むときの状態をスイッチを使って等価的に表しています。図中の“D”はスタガコネクターを使用したときのGNDに対する接触の遅延を表しています。
差し込んだボードにコネクターを経由して電源が供給されると、ボードの電源ラインとGND間に存在する寄生容量を含む容量C(F)に電荷の充電が開始されます。電源電圧をV(V)とすると、この差し込み時の充電電流 IC(A)は以下の式で表されます。
IC = C x dV / dt
立ち上がりの時間( dV / dt )は電源ライン・GNDラインのインピーダンスによって変わりますが、何も処理をしなければ、瞬時に立ち上がろうとします。したがって、この電流(突入電流・インラッシュ電流)は非常に大きく、システムで想定している最大電流値を超える可能性があります。この過電流によりコネクターなどが破損したり、ボードと接続されているバックプレーンの電源電圧が一時的に降下し他のボードやモジュールや機器本体がリセットされるなどの不具合が生じることがあります。
この対応のため、eFuse ICなどの突入電流を抑圧する素子を電源ラインに挿入する必要があります。eFuse ICには突入電流抑制機能だけでなく、過熱保護機能・短絡保護機能・過電圧保護機能・逆流防止機能も内蔵しておりより堅牢なシステムの構築が可能です。

図3 ボードを引き抜いた時の機器の状態
図3 ボードを引き抜いた時の機器の状態

② ボードを抜き取るとき
図3はボードを抜き取るときの状態をスイッチを使って等価的に表しています。
ボードを抜き取ると、それまで供給していた電源も遮断されます。抜き取ったボード側は容量に充電された電荷を放電し回路は停止します。問題が生じる可能性があるのは機器側です。引き抜いたボードに供給していた電流が突然無くなります。このとき、電源ラインとGNDラインに存在する寄生を含むインダクター Lは、電流が変化しないように自己誘導起電力が生じます。自己誘導起電力VLは以下の式で表されます。
VL = - L x dI / dt
電流の変化は減少(停止)ですので、VL は、それまでの電源電圧VCCに重畳することになります。ボードに流れていた電流の大きさ、インダクタンスの大きさ、電圧を供給している電圧源の出力インピーダンスの大きさにもよりますが、重畳分を含む電圧( VCC + VL )がこのボードと同じ電圧を利用している機器に加わり劣化や破壊を招く可能性があります。この対策としては、機器側の電源ライン・GNDライン間にツェナーダイオードを挿入します。
一般的にボード側で消費される電流は大きくないので、重畳される電圧VLはあまり大きくありません。実機での確認を行って、必要かどうか判断します。

図4 ホットスワップ機器での電源ライン対策例
図4 ホットスワップ機器での電源ライン対策例

また、ボード側のインダクタンスによりボード側に負の電圧が発生することがあります。この負電圧の大きさもオフになる直前に流れていた負荷電流とインダクタンスの大きさによります。この電圧を生じさせないためにはeFuse ICで制御する電源、GNDラインのインダクタンスを低くする(短く・太くする)必要があります。実機での確認を行い、負電圧の大きさが問題になるようであれば、ショットキーバリアダイオード(SBD)を挿入して対策を行います。(図4 ホットスワップ機器での電源ライン対策例を示します)

関連リンク

以下の資料にも関連する説明がありますので、ご参照ください。

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