トレラント(注)とは「寛容(耐性のある)」という意味で、ICの電源電圧より高い電圧*が入力端子や出力端子にかかっても誤動作や破壊しない機能です。汎用ロジックICには、入力トレラントと出力トレラントの2種類のトレラント機能があります。汎用ロジックICの電源電圧を超える可能性のある場合、この機能を持っている製品を選ぶ必要があります。非常に重要な特性の1つです。(*絶対最大定格の入出力電圧を超える電圧は印加できません)
電子機器内では複数のICが用いられます。これにより複数の電圧系(3.3 V系や5 V系など)が存在することが良くあります。このような場合、入力・出力トレラントが求められます。後述するレベルシフター(レベル変換)などの機能も求められます。また、携帯機器のバッテリー持続時間の長時間化、省電力などを目的に機器内の使用していないブロックを部分的にオフ(Partial Power Down)することがあります。このような使い方では出力パワーダウンプロテクション((注)参照)が求められます。
入力トレラント:ICの電源電圧VCC(0 V ~ 動作範囲の上限電圧)が印加されているときに、この電圧を超える電圧が入力端子に印加されても、入力端子からICに電流が流れ込まない**機能です。ただし、動作範囲を超える電圧は印加できません。
出力に関しては、少し複雑です。CMOSロジックICでは、CMOSの由来となっているP-ch MOSFETとN-ch MOSFETをトーテムポール式に組み合わせた図-1に示すような出力回路になっています。このため、ほとんどのICでは動作時に外部から電圧を印加することができません。印加すると電源またはGNDとショート状態となりICが破壊する可能性があります。
出力トレラント:出力トレラントとは、ICがディセーブルモードで出力がHi-Zのとき、出力端子に電源電圧を超える電圧がかかっても出力端子からICに電流が流れない**ようにする機能です。ただし、イネーブル状態(”H” または “L”)で電源電圧を超える電圧を印加することはできません。電源またはGNDとショート状態となりICが破壊する可能性があります。出力がオープンドレインのタイプについても、出力トレラント機能を持っていれば、電源電圧を超える電圧が出力端子に印加されても、出力端子からICに電流が流れ込みません。このタイプでは外部電源と出力の間に抵抗を挿入することで電源電圧を超える電圧を印加できます。なお、出力トレラント機能を持つ場合でも、動作範囲を超える電圧を印加することはできません。(**リークレベルの電流は流れます)
また、これとは別に出力パワーダウンプロテクションがあります。
パワーダウンプロテクション(注):電源電圧が印加されない状態(VCC = 0 V)で、動作範囲電圧内の電圧を出力に印加しても、電流が流れ込まない機能です。この機能は、ディセーブルモードの有無には関係しません。
注)トレラントとパワーダウンプロテクションを同じ意味合いで使うケースもあり、出力パワーダウンプロテクションは出力トレラントという事もあります。
従来からある一般的な汎用ロジックICの等価回路を図-2に示します。IC内の入力端子側、出力端子側にダイオードがあります。入力側のダイオードはESD保護などを目的に意図的に入れています。出力側のダイオードは意図的ではない寄生ダイオードになります。入力ー電源間、出力ー電源間の各ダイオードが、電源電圧VCC以上の電圧印加、オフ時の電圧印加によりオンして大電流を流し素子を破壊することがあります。
入力端子に電源電圧VCC以上の電圧が印加される場合、IC内のダイオードを通して大電流が流れます(図-3の上図)。入力トレラント機能のあるシリーズ(表-1の入力トレラント列に印が付いたシリーズ)に置き換えることで、素子の破壊を回避することができます。
また、出力側は直接電源ラインに接続することはありませんが、バスシステムなどで、他のバス出力と接続されることがあります。
図-3の下図において、VCC1がオフし、VCC2がオンしている場合には、OUTPUT2からOUTPUT1に向けて電流が流れてしまいます。これを回避するには出力トレラント機能のある製品に置き換える必要があります。出力トレラント機能は表-1に示す出力パワーダウンプロテクション機能を持つシリーズと、出力ディセーブル(入力に関係なく、出力をハイインピーダンスとする機能)を持つファンクションに限られます。
出力トレラント機能を持つ製品リスト
タイプ |
シリーズ名 |
CMOSロジックIC シリーズ番号 |
ワンゲートロジック (L-MOS) |
動作電圧範囲 |
伝搬遅延時間 *1 tpLH, tpHL (ns) |
出力電流 *2 |
入力トレラント |
出力パワーダウン |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
5 Vシステム 対応 |
スタンダード |
3 to 18 |
200 |
±0.51 |
△*3 |
- |
||
ハイスピード |
2 to 6 |
23 |
±4.0 or ±6.0 |
△*3 |
- |
|||
4.5 to 5.5 |
31 |
- | ||||||
アドバンスト |
2 to 5.5 |
8.5 |
±24 |
- |
- |
|||
4.5 to 5.5 |
9.0 |
|||||||
ベリーハイスピード |
2 to 5.5 |
8.5 |
±8.0 |
● |
- |
|||
10 |
||||||||
4.5 to 5.5 |
9.5 |
● |
●*4 |
|||||
1.8 to 5.5 |
8.5 |
±16 |
● |
● |
||||
低電圧システム 対応 |
ローボルテージ |
1.65 to 3.6 |
6.5 |
±24 |
● |
●*5 |
||
ベリーロー ボルテージ |
1.2 to 3.6 |
4.2 |
±24 |
● |
● |
*1:代表製品(TC4001, TC74HC244, TC74HCT244, TC74AC244, TC74ACT244, 74VHC244, 74VHC9541(An-Yn),VHCT244, VHCV244, 74LCX244, TC74VCX244)の伝搬遅延時間(Max値 at -40~85 °C)です。TC4001のみ25 °CのMax値。
*2:出力電流の値は、データシート内のDC特性で規定されています。これとは別に絶対最大定格でも出力電流を規定しています。
*3:TC4049BF/BP、TC4050BF/BP、TC74HC4049BP/BF/BFT、74HC4049D、TC74HC4050BP/BF/BFT、74HC4050Dは、入力トレラント機能が付いており、信号レベルのレベルダウン変換が可能です。
*4:TC7SETシリーズは、出力パワーダウンプロテクション機能はありません。
*5:TC7SZのfSVパッケージ製品は、オープンドレインを除いて、出力パワーダウンプロテクション機能はありません。
トレラント機能を応用したレベルシフター(レベル変換)について
入力トレラント機能を利用して、“H” 電圧を降圧電圧シフトすることができます。例えば前段がHCシリーズのロジックICで、VHCシリーズを使った 5 V ⇒ 3.3 Vの変換を考えます。
降圧の電圧変換を行うときに気を付けなければならない特性は以下になります。(数値はVHSシリーズの特性から抜粋)
入力電圧の最大値はデータシートの動作範囲に記載されている入力電圧を超えてはいけません。また、入力電圧の“L”電圧の最大値が電気的特性のローレベル入力電圧VILの最大値より低い必要があります。
上記の内容に気を付ければ、図-4に示すように簡単にロジック信号のレベルシフトを行うことができます。
ただし、5 V系と3.3 V系ではスレッシュホールドの値が異なります。このことにより信号のDutyが変わることがあります。
この点が気になる場合、弊社の2電源レベルシフターを用いることによりDutyを維持したままレベルシフトをすることができます。
以下の資料にも関連する説明がありますので、ご参照ください。