逆導通IGBT (RC-IGBT) とは何ですか?

インバーターやコンバーター回路で誘導性負荷(モーターやコイルなど)をオン/オフ制御する際に逆起電力が発生します。このオン/オフ制御にIGBTを用いる場合には、逆起電力処理用として図1に示すIGBTに逆並列に接続されたフリーホイールダイオード (FWD*1) が必要です。逆導通IGBT (RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT) は、IGBTとFWDを1チップで構成した製品です。

図1 IGBTとフリーホイールダイオードの接続:誘導性負荷のスイッチング対策として、IGBTに逆接続されたFWBが外付けされている構成を示す。
図1 IGBTとフリーホイールダイオードの接続
図2 フリーホイールダイオード (FWD) の動作:誘導性負荷のスイッチング時に発生する逆起電力に対し、フリーホイールダイオード(FWD)が電流をバイパスしてIGBTを保護する動作を示す図
図2 フリーホイールダイオード (FWD) の動作

誘導性負荷であるコイル(インダクター)は、負荷電流の変化に応じて逆起電力*2(逆方向の電圧)を発生させ、電流の変化を妨げる特性があります。インバーター回路やコンバーター回路では、誘導性負荷をオン・オフするスイッチング動作が繰り返されます。通常、オン・オフの遷移はごく短時間で行われるため、逆起電力は非常に大きくなります。オンからオフへの遷移時には、電源電圧を超える電圧がIGBTに印加され、IGBTが破壊される可能性があります。
この逆起電力によって生じる負荷電流は、IGBTに逆並列に接続されたFWD(フリーホイールダイオード)を通じて、IGBTの逆方向(エミッタからコレクタ)へと転流されます。図2には、Hブリッジ回路の1アームとして、FWDを並列接続したIGBTを直列に配置した回路を示しています。Q2がオンのときに流れるコレクター電流ICは、Q2がオフになると、誘導性負荷により発生する逆起電力によってQ1のコレクター電圧を上回る電圧が発生し、FWDが導通して電流が転流されます。

図3 RC-IGBT 内部構造例:FWBを内蔵したRC-IGBTでは、裏面のコレクター層に開口部を設け、その開口部ではn+層が直接コレクター電極に接続されています。
図3 RC-IGBT 内部構造例

RC-IGBTは、このFWDをIGBTチップに組み込み1チップとしたものです。図3にRC-IGBTの内部構造を示します。FWDはIGBTチップのコレクターであるp+層に開口部を設けn+とコレクター端子を接続しています。これにより、エミッター電極とコレクター電極にn+ − n- − p+のPINダイオード*3をIGBTと逆並列に形成しています。このRC-IGBTは、ZVS(Zero Voltage Switching)などのソフトスイッチング用途での採用をはじめ、最近ではインバーター回路などのハードスイッチング分野でも採用され始めています。ただし、トレードオフの関係(IGBTのオン電圧とFWDの逆回復時間など)から、両方の性能を最適化することは困難なため、高速性能や順方向特性を重視するアプリケーションでは適合性の確認が必要です。

IGBTのオン電圧については以下のFAQを参考にしてください。

ZVSなどのソフトスイッチングについては、以下のFAQを参考にしてください

FWDの逆回復時間については、以下のFAQを参考にしてください

*1:FWD:Free Wheeling Diode(フリーホイールダイオード)の略。リアクタンス負荷に発生する逆起電力の経路(転流経路)として用いられます。

*2:逆起電力(Back electromotive force):電力ではなく起電力。紛らわしいですが逆方向の電圧を指します

*3:PINダイオード:P層とN層の間に高抵抗のI層(Intrinsic層:真性半導体に近く不純物濃度が低く高抵抗であるという意味)を挟んだダイオードのこと。高耐圧が要求されるIGBTのFWDは、この構造が採用されています。

関連リンク

製品ラインアップについては、以下のページ、ドキュメントをご参照ください。

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FAQ

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