SiC MOSFETを使用する最大のメリットとは?

  • パワー半導体部品の置き換えにより効率改善が可能
  • IGBTを使用した場合の損失は?
  • SiC MOSFETに置き換えた場合の損失は?
  • IGBTから第2世代SiC MOSFETに変更することにより約41%の損失低減を実現

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型番 データシート 在庫検索 搭載部位・数量 特長
TW070J120B PDF(608KB)

Stock Checking

メインスイッチ・6

1200 V / 70 mΩ (typ.) @VGS = 20 V / TO-3P(N)

当社では、パワー半導体を利用するアプリケーション向けにリファレンスデザインを提供しており、状況によって設計のサポートも行っています。それらを利用して、既存の製品に第2世代SiC MOSFETを採用したことで効率改善(損失低減)を実現し、お客様のアプリケーションの競争力を高めることができた事例を紹介します。

既存製品の効率改善が早急の課題

産業用インバーターメーカーA社では、前述のような市場動向や顧客からの要求によって、自社製品の損失低減、つまり効率改善に向けた取り組みを進めていました。新規設計ではもちろんですが、既存製品においても設計や構成部品の置き換えなどの検討を進めていく必要があり、半導体メーカーのリファレンスデザインなどを参照し短期間での改版を目指していました。

A社では複数種のインバーター製品を手掛けており、その中の「2kVA出力単相インバーター」は汎用性が高く、様々な産業用ロボットや製造ラインに広く採用されています。そのため顧客からの要求も多岐にわたっており、それぞれの要求に合わせた改善がそれぞれに必要になっていました。その中でも効率改善は早急に進める必要があり、既存製品にも対応が求められているため、既存設計に対して変更が少なくもっとも影響の少ない対処として、パワー半導体部品の置き換えを模索していました。

対象製品と損失の確認

最初に効率改善を図るのは「2kVA出力単相インバーター」です。この製品は需要規模が一番大きく、損失低減を実現できれば市場での競争力は高まります。
しかしながら、低出力タイプで回路構成もシンプルなため、大出力タイプに比べて損失改善の余地があまりないことがわかっています。そのため、既存のパワー半導体、実際には4個のIGBTの損失を確認して、これらのスイッチング素子を置き換えることで、どの程度の損失低減が可能か検討を行いました。以下は、対象の「2kVA出力単相インバーター」の出力段構成の模式図と基本仕様です。

図1:概略図2kVA出力単相インバーター
A社製2kVA出力単相インバーターの基本仕様
パラメーター

入力電圧

DC 400V

出力電圧(実効値)

AC 200V

相電流(実効値)

10A

最大出力

2kVA

スイッチング周波数

15Hz

A社とのやり取りによって、IGBTを使用している既存モデルの損失は以下であることが確認できました。

IGBT損失

IGBT損失(1素子あたり)

内訳

 

 

相電流10A時:14.4W

導通損失:4.4W

ターンオンスイッチング損失:3.1W

ターンオフスイッチング損失:6.9W

SiC MOSFETに置き換えた場合の損失の検討

IGBTを使用した既存製品の駆動条件が、SiC MOSFETの駆動も可能な条件であったため、まずは単純に既存のIGBTをSiC MOSFETに置き換えて損失の検討を実施しました。

(1) 導通損失

現状のIGBTの導通損失は4.4Wであることがわかっています。基本的に導通損失が同等になるようなSiC MOSFETの選択をスタートしました。導通損失はSiC MOSFETのオン抵抗から算出できます。また、各オン抵抗の素子とインバーター出力相電流との関係における導通損失についても確認し(下記グラフ参照)、出力相電流条件の範囲においても、既存のIGBTと同等の導通損失になるSiC MOSFETを検討しました。

導通損失
SiC MOSFETのオン抵抗
(RDS(ON)

導通損失

80mΩ

5.1W

70mΩ

4.5W

60mΩ

3.9W

表2:さまざまなSiCMOSFETデバイスの伝導損失

これらの検討結果からSiC MOSFETには、既存IGBTの導通損失4.4Wとほぼ同等となるRDS(ON)=70mΩのTW070J120Bが適当と判断し、この第2世代SiC MOSFETでの損失検討を進めました。

TW070J120B

(2) スイッチング損失

既存製品の回路においてIGBTを第2世代SiC MOSFETのTW070J120Bに置き換え、相電流10A時のスイッチング損失をスイッチング波形などから算出したところ、ターンオンスイッチング損失は2.5W、ターンオフスイッチング損失が1.5Wという結果が得られました。

(3) 全体の損失比較と考察

IGBT使用の既存モデルとSiC MOSFETに置き換えたモデルの各損失の比較を示します。第2世代SiC MOSFET TW070J120Bとの置き換えによって、ターンオンおよびターンオフ損失を大幅に低減でき、トータルでは14.4Wから8.5Wと5.9Wの低減が確認できました。また、これは素子1個あたりの損失低減です。

各損失の比較

 

導通損失

ターンオンスイッチング損失

ターンオフスイッチング損失

トータル損失

IGBT既存モデル

4.4W

3.1W

6.9W

14.4W

TW070J120B代替時

4.5W
(約2%増)

2.5W
(約19%減)

1.5W
(約78%減)

8.5W
(約41%減)

IGBTをSiC MOSFETに置き換えによってスイッチング損失を大幅に低減できたのは、SiC MOSFETの優れたスイッチング特性が大きく関係しています。

IGBTは高耐圧、低オン抵抗を実現できますが、スイッチング、特にターンオフ時にはデバイス構造に起因するテイル電流が流れスイッチング損失が増加する基本特性を持っています。

SiC MOSFETは、その半導体材料であるSiCの特徴から高耐圧、低オン抵抗、高速なスイッチング特性を実現しています。デバイス構造からIGBTのようにテイル電流が発生しないため、スイッチング損失を低く抑えることができます。

以下の波形図は、一般的なIGBTと第2世代SiC MOSFET TW070J120Bのスイッチング波形の比較です。当事例の回路および動作条件における評価波形ではありませんが、同じ条件のゲート駆動信号に対する、IGBTとSiC MOSFETのターンオンおよびターンオフ時のIC/IDとVCE/VDSの典型的な特性が示されています。この例のIC/IDは10A、VCE/VDSは800Vになっています。

図3:IGBTとSiC MOSFETのIC / ID値とVCE / VDS値の比較
ターンオンスイッチング損失
ターンオンスイッチング損失
ターンオフスイッチング損失
ターンオフスイッチング損失

ターンオン時のIC/IDの立ち上がりはSiC MOSFETが若干速い程度ですが、設定条件の10Aに収束するまでの時間はSiC MOSFETが圧倒的に速くなっています。IGBTは収束までに時間を要し、その間エネルギーが損失となってしまいます。ターンオン時に流れてしまうこの電流には、コレクタ/ドレインとエミッタ/ソース間のダイオード(外付けもしくは寄生)のリカバリ電流が含まれており、ダイオードのリカバリ特性が影響します。選択したSiC MOSFET TW070J120Bは、ドレインとソース間に個別のSiCショットキーバリアダイオードを搭載しています。SiCショットキーバリアダイオードのリカバリ特性は高速でリカバリ電流の収束が速いことが、高速スイッチングと相まってターンオン時の損失低減に寄与しています。

ターンオフ時のIC/IDの立ち下がり特性には大きな違いが認められます。IGBTには基本特性であるテイル電流が流れるため、十分なオフ状態に収束するまでにかなりの時間を要し、当然ながらその間に流れてしまう電流も多くなります。つまり、大きな損失が発生します。SiC MOSFETにはテイル電流は発生しないので、ターンオフ時の損失は大幅に少なくなっています。

スイッチング素子の動作は、ゲート信号に対して瞬時にターンオン・ターンオフし、IC/IDとVCE/VDSは直ちに条件値に収束するのが理想的です。つまり、それ以外に生じる電流・電圧(=電力)は基本的に損失になります。したがって、スイッチング損失の低減にはスイッチング素子のスイッチング特性が非常に重要です。スイッチング特性は動作条件を最適化することでベストに近い状態に持っていくことは可能ですが、IGBTのテイル電流にように基本特性として有しているものは排除しようがありません。こういった部分が問題になる場合は、今回SiC MOSFETへの置き換えを図ったように、スイッチング素子を変更することになります。

まとめ

既存製品の「2kVA単相インバーター」のスイッチング素子をIGBTからSiC MOSFETに置き換えることで、定格動作時の1素子あたりの損失を14.4Wから8.5Wに、率にして約41%の低減を実現できました。これは主に、SiC MOSFETの優れたスイッチング特性が寄与しています。

SiC MOSFETの採用には、損失低減以外にもいくつかの利点があります。SiC MOSFETは高温環境下での動作特性が優れており、IGBTより放熱対策を簡素にすることが可能です。また、スイッチング損失が低いことからIGBTより高い周波数での動作が可能です。スイッチング周波数を高めることができれば、低電圧DC/DCコンバータなどと同様に周辺部品のコイルやコンデンサの値を小さくすることができ、結果としてよりサイズの小さい部品を使うことができるようになります。これらの利点は、製品の小型化や設計の自由度向上などにつながり、さらに製品競争力を高めることが可能になります。

今回はパワーデバイスを使ったリファレンスデザインをヒントに、既存製品のスイッチング素子をIGBTからSiC MOSFETに置き換えるというアプローチに至り、A社の課題の1つを解決することができました。弊社では新規設計から既存設計の改善にも役立つ情報としてリファレンスデザインを用意しており、それをベースに数々のサポートをしています。同時に、SiC MOSFETの性能向上を目指した新製品開発を継続しており、さらなる損失低減を実現するSiCパワーデバイスのラインアップを拡充しています。

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