2.5. 仮想短絡(仮想接地)

図 2-16 負帰還アンプ(反転増幅回路)
図 2-16 負帰還アンプ(反転増幅回路)

オペアンプの負帰還アンプの閉ループゲインを考えるとき、仮想短絡(バーチャルショート、仮想接地*、バーチャルグランド*などとも呼ばれることもあります)の考え方を使うと簡単にゲインを求めることができます。
この考え方は、開ループゲインの大きな負帰還回路では入力信号に関係なくVIN(+)端子とVIN(-)端子はほぼ同じ電圧になるというものです。

以下のように考えると感覚的に理解できます。
オペアンプはVIN(+)とVIN(-)の差分を増幅し、そのゲイン(開ループゲイン)は10万倍程度あります。ただし、現実のオペアンプでは出力は有限です。従って負帰還の無い回路で、仮に差分の電圧が正弦波で1Vppであれば出力は10万VPPになるはずですが、一般的に出力は電源電圧とグランドで制限されています。このことから電源電圧・グランド間の電圧で飽和した矩形波となります。従って、オペアンプを使ったアンプで歪の無い出力(例えば正弦波)を得る場合、入力 VIN(+)端子とVIN(-)端子間の電位差は無視できるほどわずかとなります。
図 2-16の負帰還アンプ(反転増幅回路)の場合、出力信号は入力信号を下げる方向に働きます。このことで、出力は電源・グランド間に収まる信号となります。(例えば入力1Vppで3倍のアンプ (R2 = 3 x R1) であれば 3Vppの出力となります。)
このときオペアンプ自身の増幅率(開ループゲイン)は10万倍で働いています。出力が3Vppですので、入力は3Vpp / 10万 = 30μVpp です。従って、VIN(-) ≒ VIN(+)と言えます。
簡単な計算を交えて少し説明します。図2-16にオペアンプを使用した負帰還アンプ(反転増幅回路)を示します。

オペアンプ (3)式

オペアンプを理想オペアンプと考えると以下の考え方ができます。

① 開ループ利得AVが無限大
② 入力インピーダンスが無限大
③ 出力インピーダンスがゼロ

R1を流れる電流i1は条件②により全てR2を流れます。

i1 = (Vi – VIN(−)) / R1 = (VIN(−) - Vo) / R2  ・・・(1)
オペアンプの基本式は Vo = AV x (VIN(+) – VIN(−))  ・・・(2)

(1)式と(2)式からVIN(+)を求めると

条件①と(3)式から VIN(+) = VIN(−) を導くことができます。
このことからマイナス側の入力VIN(−)の電圧は接地しているVIN(+)の電圧 GND に等しいことが分かります。
このVIN(−)端子の状態を仮想短絡と呼びます。

*:仮想接地(バーチャルグランド)は、広義の意味では電源やGNDと直接接続されていない安定したノードを指します。オペアンプでは図 2-16の回路の場合、VIN(-)がGNDに見えることから仮想接地と呼ばれています。

仮想短絡と理想オペアンプを用いて、図2-15の非反転増幅回路のAVを求めてみます。出力電圧VoをViで表します。仮想短絡の考え方から VIN(-) = VIN(+) = Vi と考えることができます。
従ってR1を流れる電流I1は以下になります。

I1 = VIN(-) / R1 = Vi / R1

図 2-17 非反転増幅回路
図 2-17 非反転増幅回路

オペアンプの入力端子のインピーダンスは無限大ですので電流は流れ込まないので、R2に流れる電流I2に対しI1 = I2が成り立ちます。従ってR2の両端の電位差 VR2は以下になります。

VR2 = R2 × I2 = R2 × Vi / R1

従って、Voは以下になります。

Vo = VR1 + VR2
= Vi + R2 × Vi /R1 = Vi × (R1 + R2) / R1

AV = Vo / Vi = (R1 + R2) / R1

このように簡単に求めることが可能です。

図 2-18 反転増幅回路
図 2-18 反転増幅回路

図2-16の反転増幅回路についても同様に求めることができます。

VIN(-) = VIN(+) = 0 V (GND)
I1 = V1 / R1 = I2
Vo = VR2 = R2 × I2 = R2 × V1 / R1

従って、閉ループゲインは以下になります。

AV = Vo / Vi = R2 / R1

このように仮想短絡の考え方と理想オペアンプの考え方を用いれば、簡単に閉ループ利得を求めることができます。

関連情報

2章 オペアンプの使い方

2. オペアンプの使い方
2.1. フィードバック(正帰還と負帰還)
2.2. 開ループゲインと閉ループゲイン ー使用帯域幅の拡大ー
2.3. 発振
2.4. 基本的な回路

関連情報