オペアンプは通常図 2-6に示す帰還回路を用いて使用されます。2-1 項正で説明をしましたが、帰還(フィードバック)には正帰還と負帰還があり、オペアンプを増幅で使用する場合には負帰還が使用されます。帰還回路を使う場合、発振に気を付ける必要があります。
ここで発振について少し説明します。発振は発振の種となる信号やノイズが成長することによって生じます。
まず、入力された発振の種が増幅器・帰還回路を通り加算器で加算され、加算器の出力が初期の状態より大きくなります。これが繰り返されることによって、発振の種が成長していきます。これが発振です。これはまさに正帰還そのものです。
使用するのは負帰還回路だから関係ないと思われるかもしれません。しかし、主に増幅する信号では負帰還であっても、より高い周波数では正帰還になってしまうことがあります。
帰還回路の伝達関数は以下になります。AVはオペアンプの開ループ利得、Bは帰還ループの帰還率です。AV B はそれぞれ複素数です。
Vout = AV / (1 + AV × B) × Vin
負帰還回路の場合、 AV x B = + | AV x B | となり、2-1項で説明したようにvoutは安定な出力を得ることができます。しかしながら全ての回路は遅延を持つので、周波数が高くなると入力に対して位相遅れが生じます。
この帰還回路の位相遅れにより位相が180度ずれると正帰還となります。
正帰還(帰還回路を通った信号の位相が同相)におけるループゲインの大きさ | AV x B | による出力voutのイメージを以下に示します。振動の種が入力されると、その周波数における| AV x B |の大きさによって、減衰振動・持続振動・発散振動が生じます。持続振動が発振と呼ばれる現象です。ただし、発散振動は最終的には増幅器のダイナミックレンジなどにより開ループ利得 ”AV” が制約され持続振動(発振)になります。
ループゲイン ( AV x B ) が下記の条件(伝達関数の分母がゼロになる条件)が満たされる時に持続振動(発振)が生じます。この条件をバルクハウゼンの発振条件(または単に発振条件)と呼びます。
ただし、既に記載したように発散振動も最終的には発振になります。従って、異常発振が生じる振幅条件は以下になります。
オペアンプは内部に持つ寄生容量などにより、図 2-8に示す1次遅れ(1次のLPFと同じ)要素を持ちます。
一般的なオペアンプは図 2-8に示すように開ループゲインのカットオフが10Hz~100Hz程度になります。このカットオフ周波数で位相は45度遅れます。オープンループ利得 A が6dB/Oct で減少する周波数では90度遅れます。
このような特性(主極しかない特性)であれば、360度の位相に対し90度余裕があるので、発振は起こりにくいと考えることができます。
実際には、オペアンプには複数の極が存在します。図 2-9に示すカットオフ周波数 fcは主極と呼ばれ、しゃ断周波数fTの近傍に存在する周波数fc2の極を第2極と呼んでいます。もっと高い周波数にこれ以外の極もありますが、実使用上問題なることはほとんどありません。
図に示すように、fc2より高い周波数でのオープンループゲインの傾きは6dB/Octから12dB/Octに変わります。また、fc2で位相は更に45度遅れることになります。この遅れもfc2がしゃ断周波数fTより高い周波数に存在する場合は問題になりませんが、低い場合でボルテージフォロワーなどのユニティゲインで使用する場合に注意が必要です。(fT以上の周波数に第2極が存在するオペアンプにのみユニティゲインで使用可能とデータシートに記載しています。)
異常発振を避けるためにオペアンプは6dB/Octの範囲内 (fc~fc2) で使用するようにしてください。但し、fc2近傍では既に第2極の影響を受けており、ロス・位相曲がりがあります。この影響を完全に避けるためには閉ループ帯域幅 fCLをfc2の1/5以下の周波数にする必要があります。
ここまではオペアンプ単体での発振の可能性を述べてきました。
外部回路でも発振(位相曲がりなど)が生じないように気を付ける必要があります。
例えば、容量負荷をオペアンプで駆動する場合も同じことが言えます。ループゲインが1より大きな範囲内に容量負荷によるカットオフ周波数があれば、同様に発振することになります。容量に直列に抵抗を挿入するなどの対策が必要になります。また、負荷を接続していなくても、配線などの容量にも注意が必要です。オペアンプの出力に接続された次段への配線、帰還ループの配線は可能な限り短く配線してください。